世界人権宣言を記念して、2003年12月19日から20日にかけて、吹田市文化会館で人権オペラ「フィガロの結婚」が上演された。公演は、全国から大勢の参加者がかけつけ、「来年もぜひ上演して欲しい」という声が上がるなど、大成功に終わった。人権と文化の結合がさけばれる現在、オペラと人権について、今後の人権啓発の在り方をふまえて報告していただいた。
オペラは近代ルネッサンス発祥の地であるイタリアのフレンツェであの有名なガリレオの父親たちが始めた。そして、市民の町、水の都のヴェネチア(ヴェニス)で爆発的に発展したという歴史が物語っているように、市民のための総合芸術である。その中身は、反権力、反差別であり、個人の自立と人間の生きざまを問い、社会変革を呼び覚ますまのであった。今回上演された「フィガロの結婚」も封建社会の領主・貴族の腐敗や堕落を一蹴する視点で描かれた戯曲である。
しかし日本では、1908年に文部省が「オペラ禁止令」をだし、学校では教えず、オペラは一般市民からかけ離れた上層階級の芸術にされてしまった。日露戦争に勝利して国家主義、軍国主義へと人びとを導こうとしているときに、オペラの持つ個人主義、市民主義は危険思想とみて大衆化することを恐れたためであった。このオペラ禁止令は1951年まで43年間も続き、日本のオペラ音楽史にとって、どれだけの痛手になったかはいうまでもない。
オペラは万国共通の総合芸術だが、日本では一般市民からかけ離れた存在となっている。不景気とはいえ、経済大国になった日本で、年間自殺者が3万人を超えている。これまで、物質的な「ものの豊かさ」を追い求めてきた反面、文化や芸術など「心の豊かさ」を忘れている。
そんな中、オペラは「個の確立」と「反差別の視点」を訴える人権啓発の重要な文化活動であり、これからの日本の国際化のキーワードにもなる。人権行政と文化行政が完全に切り離されている現状や、オペラが芸術として日本では評価が低いことなど、克服しなければならない課題は多い。例えば、大阪府内にオペラ専用の劇場は、全くないのが現状である。
誰もが安い料金で参加でき、人々の心の糧となり、癒しとなり、楽しい気分の中で、人間性の原理と人権の大切さを身につけていく。そういった、文化創造と人権啓発を統合した新しい形の人権啓発がこれからは必要である。
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