7月14日に2004年度の人権啓発ビデオ『そっとしておけば……寝た子を起こすなという考え方』の取り扱いセミナーが開催された。ビデオの制作意図やワークショップ形式の進め方を実践的に学んでもらおうと企画されたもので、以下、概要を紹介する。
新作ビデオの概要
「寝た子を起こすな」論は部落差別の撤廃において古くて新しい問題だ。ビデオの特徴は、前半の問題提起ドラマ部分を見た後に参加者がワークショップ形式でグループ討論できる構成になっている点だ。職域、地域、生い立ちがそれぞれ違う参加者が、「寝た子を起こすな」についてロールプレイをする。
住んでいる場所や生い立ちについて人には話したくないという前提を作り、詳しく聞いてくる相手役に対してどう振る舞うかを参加者が演じる。ロールプレイを通して自らの体験や差別意識の芽生え、そして「隠して生きる」とはどんなことなのかを感じ、そして隣り合った参加者と話してもらう。
その後、ビデオの解説部分を上映した。グループ討論を踏まえて、解説部分は各種の市民意識調査を用いながら「寝た子を起こすな」論が未だ根強く、部落問題を避けることが問題を見えにくくし結果的に差別をしてしまう側に加担してしまうという構図を描き出す。
また、「そっとしておく」ことが、被差別側をどれだけ抑圧し、黙らし差別への抗議の声を奪っているかも指摘する。そして「寝た子を起こすな」論を乗り越えていくことが、人権尊重の社会作りの第一歩になると問題提起してビデオは終了する。
ふりかえり
ビデオ上映の後、セミナー全体を通しての振り返りを行った。参加者からは、ロールプレイの展開についての意見や、ひたすら相手のことを知りたいという欲求が差別にどのようにつながっていくのかという疑問や、被差別当事者が「寝た子を起こすな」論だった場合にどのような反応を示すだろうかという疑問も出された。
80分という短い時間に「寝た子を起こすな」について問題提起と意見交換、解決方法の模索をすべて盛り込むのは時間的制約がある。しかし、解説部分はあくまで研究所としての解説であって対象や場所、地域や世代によって解説の展開は大いに変わってくる。そしてビデオを取り扱う方が私ならどのように展開しようかと考えてもらうことが今回のセミナーの狙いである。
制作サイドから
アンケート記入と休憩を挟んだ後に、ビデオの制作にあたった演出家とプロデューサーからコメントをもらった。演出家の松下さんは、「ビデオ制作にあたって考えたことや考えていなかったこと、ビデオの中で描けたことと描けなかったことを参加者に意見してもらいとても参考になった」「普通になにげなく生活している部落外の住民に部落問題に対して接点を持ってもらい、身近なところの経験を通して(ロールプレイなど)差別の構造と私自身の問題であるということに気づいて欲しい」と作品を振り返った。
プロデューサーの青木さんは「自分自身がこの作品作りを通して、差別に関して無関心であることは結果として差別することにつながることに気づいた」と話した。
終わりに
今回のセミナーそしてビデオは人権学習・研修に大いに役立つと思う。みなが頭をつき合わせて一緒に考える。そこがスタートラインなのだと改めて感じた。
(星野 直樹)
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