調査研究

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2007.11.29
部会・研究会活動 <啓発部会>
 
人権啓発センター研究会/啓発部会 合同学習会報告
2007年8月31日

1.「三重県人権センターの取り組み」

藤谷 美恵(三重県人権センター)

〈第1報告〉

 当センターは県直営で、生活部人権・同和室が本課。単独地域機関として、津市に約26億円をかけてつくられた。他府県のセンターの多くで指定管理者制度が使われていたり、県庁の一室にあったりという中で、県立は珍しい。

 1990年に、全国に先駆けて三重県議会で「人権県宣言」が決議され、宣言の内容を県民に伝え、啓発していく目的で96年11月4日に人権センターオープン。

 翌97年に「人権が尊重される三重をつくる条例」が施行されたがこれを根拠に各部局の課長級の管理職が人権担当特命監とされ、総合行政として、人権の観点からそれぞれの事業のチェックや職員の人権研修を担当している。特命監会議を月2回開催し、横の連携を取りつつ課題の解決にあたる。

 センターには所長のもと、啓発課と相談課があり、職員は嘱託も含め19名。県職員なので4-6年で異動してしまう。

 建物内には当センターの他、教育委員会や県の認可の2法人「財団法人反差別・人権研究所みえ」「社団法人三重県人権教育研究協議会」が入居し、連携している。

 常設展示室があるのも特徴で人権学習に活用いただいている。他に多目的ホールや図書室もある。

 啓発課の事業は大きく分けて、募集もの、イベント、冊子等の作成。募集ものでは、人権ポスターの募集、人権フォトの募集のほか、人権メッセージを募集している。いただいた人権メッセージは県内で一番よくかれるFM三重で放送しており、評判がいい。絵本の原作としての人権ショートストーリーは、唯一全国から募集している。

 イベントとしては、まず人権フォーラム事業。解放同盟や県内の大きな企業、学識者も参加した実行委員会形式で、今年で8回目。県民人権講座は、昨年から県内市町でも開催することとした。

 企画パネル展は「強調月間」の間にセンターに展示。パネルはイベント用以外にも作成しており、県内外の団体、市町村に貸し出している。

 印刷物としては、去年はネット上の人権侵害の問題のパンフや、中小企業が気軽に利用できるような人権啓発教材も作成している。

 県民意識調査は7-8年に一回の割合でやっており、結果を抜粋したパンフをつくり、県職員が「出前トーク」として外で話している。

 相談課では、隣保事業支援と人権相談を実施。人権相談の方は相談員が月-金9-17時、電話又は面接で対応。毎週水曜午後は予約制・無償で弁護士等による法律相談、第4木曜午前は予約制・無償で臨床心理士によるカウンセリングを実施している。相談内容によって、人権特命監会議で解決を図ってもらったり、県警や法務局など関係機関につなぐ。

 最近、問題になっているのは差別事象の対応で、去年は落書きが多発したが、近年はネット上が目立っている。モニタリングとチェックをしているが、現状に対応がなかなか追いつかない。

 全体予算は3年前ぐらいから対前年比3割カットとなってきたが、隣保館予算は人件費補助の要素が大きく、センター予算に占める割合が高い。それとは関係なく3割カットされるので、啓発の予算面は本当に苦しくなっている。

 課題としては、市町とどう関わるか。もっと県民へ直接啓発を打っていきたいが、市町にまかせたほうが効率的では?という意見が必ず出てくる。しかし市町村は温度差がすごい。こちらが指導を請いたいような市がある一方で、取り組みの弱い自治体もある。市町村とのすみわけ・共同しての啓発効果をどう生むのかが今後のポイント。

 意識調査をしていても、人のうわさに流されやすい人が差別をする。行政のメッセージがあればそういう人たちは「差別はアカンな」と思う。重層的にやるべきだ。

2.「(社)千葉県人権啓発センターの取り組み」

立岡 勇一(甲賀・湖南人権センター)

〈第2報告〉

 当センターはまったくの民立民営。民間の運動団体の貯金を全部つぎ込んで2億ほどかけてはじめた。前身は千葉県部落問題研究センターで、94年に社団法人化、2年後に定款変更して現在のセンターになった。会員は団体と個人あわせて200と少なく、年間予算が約3000万。職員は2.8人で、被差別当事者でないとできないことをやろうと、部落出身者と障害のある人だけとしている。ただ、プロパー職員はまったくの事務や手配士のような仕事で、実働部隊は無給の会員。

 今の知事になって県との関係が改善していき、すみわけをきちんとしてお互いの存在価値を有効にしようとしている。たとえば、千葉県の人権施策の基本文書をつくるのに、いろいろな当事者の意見を聴いたわけだが、その委員を決めるのに当センターが協力した。

 将来、あともう2つのファクターを加え4つのファクターの四輪駆動で人権施策をすすめようとしている。ひとつは、当センターと隣接した佐倉市で準備がすすめられている「佐倉市人権推進資料センター」。三重県人権センターと考え方が似ており、ミュージアムやライブラリーの保存機能などを期待できる。もうひとつは、佐倉市にある国立歴史民俗博物館で、第5展示室は近現代なのだが、歴史が黙殺してきた影の部分を展示しており、人権展示室とも言える。

 97年には県から人権啓発ビデオの制作を受けたがわずか500万円でやった。我々がお願いしなければ出てくれない人たちがノーギャラで出てくれた。プロのスタッフも、もともと社会運動に協力しようという意思がある人たちの心意気でコストカットしてもらっている。県に200本ほど納品した後は版権を無償でいただき、コピーをして一本1万円で350本売って収入とした。

 もうひとつ大きな仕事の柱は各種調査。人権意識調査などの委託もよくあり、来年度も3つの市町村から受ける。1市町村約200万と安く受ける代わりに、3つの市町村で組んで600万にしてもらっている。スケールメリットとして600万ならできる。これも、学者の方に安くやっていただいて、交換条件として、調査の結果をフリーで研究につかっていただいている。

 他にも県から県職員の指導者養成講座を受託しており、今年からコンペになったが、この内容をこれだけお金をかけずにやっている私たちは勝ち続ける自信がある。

 ただ、当センターが事業を受けることで、行政マンが育たないことが欠点。対応策を考えなければいけないと思っている。

 自主事業は最低3つやっている。これまで1000人規模の部落解放県民集会などをやってきたが、最近のネット上で起きているような異常事態を放置できないと、もう一度、部落問題だけを論議する場として去年から部落問題研究集会をしている。2つめは教員の実践交流講座である同和教育夏期講座。3つめに人権展。当初は千葉県全域でやっていたが、市町村持ち回りとし、主催はセンター、後援○○市という形で希望を聞いて企画。人権展(1週間)と講座(1-2日)をかけあわせたようなものをやっている。

 あとは月刊『スティグマ』の発行や、各市町村の人権フェスティバルに当センターのつくったパネルを貸し出している。パネルは製作原価40万ぐらいかかるので、A3版にプリントアウトできるフォトCDにして1万円で売っている。学校でも買えるお手軽な価格。

 課題としては、クライアントが行政に非常に偏っているということ。できれば企業や市民なども対象にしたいが、それには人権意識の高揚が必要であり我々だけでどうこうできないが、長期的に取り組みたい。

(文責:栗本知子)