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2009.09.02
部会・研究会活動 <啓発部会>
 

啓発部会

2009年6月3日

人権啓発の現状と効果検証に向けた指標作成研究事業の報告

報告:内田龍史(部落解放・人権研究所)
コメント:上杉孝實(畿央大学)松本城洲夫(じんぶんネット)

内田報告:

  「人権啓発の現状把握と効果検証に向けた指標作成研究事業」は、2007-2008年度にかけて実施された事業である。2007年度事業は、・人権啓発の現状把握のための調査研究、・人権啓発の効果検証に向けた指標作成のための研究の二つを柱としていた。・人権啓発の現状把握のための調査研究は、大阪府内の自治体に対しアンケート調査を行ったうえで、人権(啓発)担当者にヒアリングを行い、体制・内容・形式・頻度・効果測定などに関する研究を行った。そのうえで、効果検証の視点を整理した。

  さらに、・人権啓発の効果検証に向けた指標作成のための研究会は、効果検証に関する研究から、効果検証の視点を整理することを目指した。こうした蓄積のもと次年度も引き続き同協議会からの委託事業として、調査研究を推進する予定だったが、大阪府が委託事業を廃止したことにより、2008年度は研究所独自の研究として実施されることとなった。

  研究会における議論を経て、啓発実践を行うためには「ねらい」をはっきりと設定すること、その際、具体的な人権概念が設定・意識化されていることの重要性があらためて確認されることとなった。それらを基盤として、具体的な効果検証の方法として、啓発事業の実施・企画作成時のポイントをまとめ、講座・講演などにおけるチェックシートなどを作成した。

上杉コメント:

  人権問題学習だけでは、自分は直接関係ない・差別されている人の問題というとらえ方を生み出しかねない。人権問題学習と人権学習をつないでいくことが重要だ。人権問題に取り組む場合も、具体的な権利と関連させながら見ていくことが必要になる。自治体にとって、住民の人権を守ること、住民の人権意識が高まることは重要な課題である。

  自治体の人権啓発の実践を考えた場合、市民が人権啓発の担い手になることが重要だ。そうした草の根リーダーは継続的な学習がなければリーダーシップを発揮できないが、現在の人権啓発は単発的なものが多く、継続的に学ぶ機会は多くない。人権啓発についてはひとつひとつの効果測定がされてきたわけでない。しかし、少なくとも連続学習的なものでは、事前・事後の対比・効果測定は可能だろう。

  早く効果をあげたい気持ちもわかるが、実際には息の長い学習が必要である。人権学習は正解が求められてしまう。認識のズレが大きかったり、誤ったとらえ方がある場合、正解を示すことがよく行われてきた。しかし、多面的な角度からとらえ直す学習のプロセスも大切である。そのためのファシリテーターの意義は大きい。

松本コメント:

  人権行政・人権啓発・人権教育すべてにおいて、人権とは何かが問われている。人権啓発は、主体の形成をどう考えるのかという課題につながる、人間の尊厳に関わる問題である。 日本とヨーロッパの人権感覚の違いがある。市民意識調査で、人権についてどのようなものを想定するのかを問うたことがあるが、日本では多くは「差別」と「平等」を想定する。

  イタリアで聞いてみると、「自由」と「尊厳」といった回答が返ってくる。「自由」と「尊厳」を軸に、人権を自分のものにしていくことによって、人権の文化に根ざした生活を進めていけるのではないか。主体の形成がはかられると、個別の人権課題についての感覚も高まっていく。たとえば、すぐれた音楽家になろうとすると、封建的・伝統的・男尊女卑的な文化を克服しなければ、立派に演奏できないという現実がある。

  行政にとっての人権は、特措法以降、人権部局に特化されてしまった。法体系から言っても、自治体行政は人権を確立することが仕事である。ところが、人権行政は人権問題行政だととらえられている。自治体行政=人権行政という立場に立ってこそ、人権問題行政の課題が見えてくる。

(文責 内田龍史)