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企業部会・学習会報告
2001年12月12日

企業と人権をめぐるグローバルな動き

麗澤大学外国語学部 教授
企業倫理研究センター 研究員
梅田 徹

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1.企業と人権に対する関心の高まり

要因:

  1. グローバリゼーション
  2. 企業の社会的責任(CSR)
  3. 市民社会(NGO)の連帯

2.1970年代における企業規制動向との違い

多国籍企業の行動規範に対する70年代の関心:

国家主権侵害、内政干渉

  • 1976年 OECD「多国籍企業ガイドライン」
  • 1977年 ILO「多国籍企業および社会政策に関する三者間宣言」
  • 1977年 国連多国籍企業委員会で「多国籍企業行動規範」起草作業開始

    (90年最終草案)

1990年代以降の関心:人権、労働、環境 国連の「グローバル・コンパクト」

3.多国籍企業の行動規範の制定側面

1991/9  経団連「企業行動憲章」

1994/12 コー円卓会議:「企業の行動指針」

1995/5  クリントン政権:「モデル・ビジネス原則」

1996/12 経団連「企業行動憲章改定」

1997/4  Apparel Industry Partnership:Workplace Code of Conduct

1997/10 Clean Clothes Campaign:Code of Conduct

1997/10 CEP:SA8000

1997/12 ICFTU:Model Code

1998/1  Ammesty International:Human Rights Principles for Companies

1998   Worldwide Responsible Apparel Production:WRAP Principles

1998/11 「アジアNGO憲章」

1999/1  「グローバル・サリバン原則」

1999/12 「グローバル・コンパクト」

2000/1  Ethical Trade Initiative:Base Code

2000/6  OECD「多国籍企業ガイドライン」改定

2001/5  「企業のための普遍的人権ガイドライン」草案

(2001/11「企業のための基本的人権原則」草案)

4.行動規範の実施側面(コンプライアンスの確保)

(1)NGO、労働組合等諸団体の連合によるモニタリング活動

「公正労働協会」Fair Labor Association 他

(2)NGOによるモニタリング/ボイコット運動

Free Burma Coalition

Corporate Watch

EarthrIghts International

Global Exchange

Human Rights Watch

(3)第三者認定制度 SA8000

(4)外国を法廷地とする民事訴訟の増加

“foreign direct liability”

(a)アメリカ 「外国人不法行為請求法」に基づく訴訟の増加

  • Unocal事件
  • Texaco事件
  • Shell事件
  • その他Talismans-Sudan,Pfizer-Nigeria,Chentex-Nicaragua,Coca-Cola-Columbia

(b)オーストラリア BHP

(c)カナダ Cambior

(d)イギリス Rio Tinto,Cape Industries


(5)外国における企業の人権侵害について刑事責任を追及する枠組みの模索

OECD外国公務員贈賄防止条約と属地主義、属人主義、域外適用

・日本、カナダ、イギリスは、属地主義のみ、他国は属人主義を採用

5.人権に対する取り組みの事例

(1)グローバル・コンパクト以前

・リーボック
・リーバイス

(2)グローバル・コンパクト関連

・ファイザー
・ドイツ銀行

6.おわりに

合意形成の評価

国連グローバル・コンパクトの評価・期待

日本企業にとっての課題
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【資料1】

「企業のための普遍的人権ガイドライン」(仮訳)

 Draft Universal Human Rights Guidelines for Companies

(2001年5月 国連人権委員会人権促進保護小委員会提出)

A. 一般的義務

1.政府が、国際的に承認された人権を尊重し、それに対する尊重を確保し、促進する主要な責任を有している一方で、企業もまた、それぞれの行動および影響のそれぞれの範囲内で国際的な人権を尊重し、それに対する尊重を確保し、促進しなければならない。

2.この原則のいかなる規定も、政府の人権義務を減じるものではない。

B. 平等の機会および処遇に対する権利

3.企業は、その選択が雇用における平等を促進し、または健康を保護する特別な狙いのない限り、民族、皮膚の色、性別、宗教、政治的意見、国籍、社会的出自、社会的地位、先住的地位、障害の有無、年齢(成人の年齢の越える者について)、婚姻関係の有無、出産能力、妊娠の有無、性的嗜好、遺伝的特徴、または仕事を遂行する個人の能力に関係のないその他の個人的地位に基づく差別を排除する目的のために、機会および処遇の平等を確保する政策を追求しなければならない。

C. 個人の安全に対する権利

4.企業は、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド、拷問、強制的失踪、強制的または義務的労働、人質行為、国内武力抗争における弾圧、ならびに、人間に対するその他の国際犯罪に従事し、またはそれらから利益を得てはならない。

5.企業の安全措置は、企業が操業する国の法律が国際的な人権基準と対立しない限り、当該法律および専門的な基準を遵守しなければならない。

D. 労働者の権利

6.企業は強制的または奴隷労働を用いてはならない。

7.企業は、児童労働を用いてはならず、また、その廃止に貢献しなければならない。

8.企業は、安全かつ健康的な労働環境を提供しなければならない。

9.企業は、労働者に対して、労働者の環境の文脈において、労働者およびその家族の人間的存在に相応しい生活様式を確保するような報酬を支払わなければならない。

10.企業は、すべての労働者が、労働者の雇用利益の保護のため、また、集団交渉のため、労働組合を含む、労働者が選択する組織を形成し、それに参加する権利を持つことを確保しなければならない。

E. 国家主権および現地コミュニティの尊重

11.企業は、当該企業が操業する国の法律、規則、行政慣行、法の支配、自決、価値観、開発目標、社会的、経済的、文化的政策、ならびに当該国の権威を、それらが国際的な人権基準と矛盾しない限り、承認し、尊重しなければならない。

12.企業は、いかなる政府または政府役員に対しても、賄賂もしくはその他の不正な利益を申し出、約束し、付与し、受領し、または要求してはならず、また、賄賂もしくはその他の利益を付与することを勧誘され、または期待されてはならない。

13.企業は、健康、適切な食糧、および適切な住居に対する権利を尊重しなければならず、また、それらの権利の実現を妨げるような行動を慎まなければならない。企業は、また、初等教育の権利、休息および余暇の権利、ならびに共同体の文化的な生活に参加する権利などの他の経済的、社会的、文化的な権利を尊重しなければならず、それらの権利の実現を妨げるような行動を慎まなければならない。

14.企業は、移動の自由、思想、良心および宗教の自由、ならびに意見および表現の自由などの他の市民的政治的権利を尊重しなければならず、それらの権利の実現を妨げるような行動を慎まなければならない。

F. 消費者保護に関する義務

15.企業は、公正な取引、販売、および宣伝活動にしたがって行動しなければならず、企業が提供する商品およびサービスの安全性、ならびに品質を確保するためにすべての合理的な手段をとらなければならない。

G. 環境保護に関する義務

16.企業は、企業が操業する国の環境保護に関する法律、規則、行政的慣行、および政策に従い、かつ、環境ならびに人権に関する適切な国際協定、原則、目的および基準に対して適切な注意を払いながら、自己の行動を実行しなければならない。また、環境、公共衛生、および安全を保護する必要を適切に考慮しなければならない。また、持続可能な開発等いうより広範な目標に寄与するような形で、一般に自己の行動をとらなければならない。

H. 実施についての一般的規定

17.各企業は、自己の行動規範を採用し、普及し、実施しなければならない。もしくは、少なくともこのガイドラインに規定された保護を付与するその他の適切な措置をとらなければならない。

18.企業は、独立で、透明で、かつ、関連するステークホルダーからの情報を含むような仕方でこのガイドラインの遵守を監視し、検証しなければならない。

19.企業は、このガイドラインに照らして、人権への影響を決定するために自己の主要な行動を評価しなければならない。

20.このガイドラインのいかなるものも、国際法、国法または州法おいて承認された人権、もしくは企業の行動に制限を加え、または否定的な影響を与えるものと解されてはならない。

(1). 定義

21.「企業」の語には、その行動の国際的または国内的な性質、当該企業体を樹立するために用いられる法人、提携、またはその他の法的形式、何らかの民間所有、または政府所有の実体を含む、当該実体の所有の性質にかかわらず、いかなる企業体をも含む。

22.「ステークホルダー」の語には、株主、その他の所有者、労働者、その代表、ならびに、当該企業の行動によって影響を受けるその他のいかなる個人または団体をも含む。
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【資料2】

各種行動規範に盛り込まれた要素

モデル・ビジネス原則(Model Business Principles)

  • 安全で健康な職場の提供
  • 児童労働、強制労働の回避、差別の回避、結社の自由、団体交渉権を含む公正な労働環境
  • 責任ある環境保護および環境実践
  • 不正な支払いの禁止および公正な競争の確保を含む、善良なビジネス慣行を促進する米国および現地の法律の遵守
  • 表現の自由を尊重し、職場における政治的強制を許さない企業文化、よき企業市民であることの奨励、地域社会への貢献等の維持

CCC Code of Conduct (cf. ICFTU Basic Code)

  • 強制労働、債務労働の禁止、預託金等のない自由な雇用
  • 雇用における差別の禁止(機会均等と処遇の平等)
  • 児童労働の禁止(義務教育終了年齢以上)
  • 結社の自由、団体交渉の権利
  • 生活給の支給(法定最低賃金、基本的ニーズを満たす)
  • 適切な労働時間(週48時間、定期の休日)
  • 相応しい労働状況(健康で安全な環境、体罰・ハラスメント等の禁止)
  • 労働法、社会保障法の下における雇用者の義務の履行、若年労働者に対する教育・訓練プログラムへの参加機会の提供

FLA-AIP Workplace Code of Conduct

  • 強制労働の禁止
  • 児童労の禁止
  • ハラスメント、虐待の禁止
  • 健康と安全
  • 結社の自由と団体交渉権
  • 賃金と恩典
  • 労働時間
  • 超過勤務に対する補償

SA8000

  • 児童労働の使用への関与または支援の禁止
  • 強制労働の使用への関与または支援の禁止
  • 健康で安全な職場
  • 結社の自由、団体交渉権
  • 差別の禁止
  • 体罰、精神的、肉体的強制、言葉による虐待の禁止
  • 適切な労働時間の遵守
  • 適切な賃金補償
  • 要求されたマネジメントシステムの確立、維持

ETI Base Code

  • 強制労働の禁止
  • 結社の自由、団体交渉権
  • 安全で衛生的な職場状況
  • 児童労働の使用の禁止
  • 生活給の支給
  • 過剰な残業の禁止
  • 差別の禁止
  • 定期的な雇用の提供
  • 過酷で非人間的な扱いの禁止

グローバル・コンパクト(Global Compact)

  • 国際的に宣言された人権の保護の支持、尊重
  • 人権侵害に組しない体制の確立
  • 結社の自由、団体交渉の権利の尊重
  • 強制労働、義務的労働の排除
  • 児童労働の実効的な廃止
  • 雇用と職業における差別の禁止
  • 環境問題に対する予防的取り組みの支持
  • より大きな環境責任を負うことに対する積極的な取り組み
  • 環境にやさしい技術の開発と普及の奨励

OECD「多国籍企業ガイドライン」2000年改訂版(主な変更点のみ)

  1. 「定義と原則」の章の新設
  2. 「贈賄の防止」の章の新設
  3. 「消費者利益」の章の新設
    • 基準適合の確保、正確な情報の提供
    • 苦情処理の効果的手続の提供、不当表示の禁止
    • 消費者のプライバシーの尊重、個人情報の保護
  4. 雇用労働関係規則の拡充
    • 児童労働の実効的な廃止に貢献する
    • あらゆる形式の強制労働の撤廃に貢献する
    • 職業上の健康で安全を確保するため適切な措置の実施
  5. 環境関連規則の強化
    • 環境マネジメントシステムの樹立
    • 環境アセスメントの準備
    • 企業の環境パフォーマンス改善の継続的追及
  6. 「一般方針」で新たに追加された要素
    • 企業活動の影響を受ける人々の人権の尊重
    • 良きコーポレート・ガバナンス原則の支持・維持、慣行の発展・適用
    • 内部通報者の保護
    • 取引先に対する原則適用の奨励