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ポール・イガサキ
米国雇用平等委員会(EEOC)は、1964年に制定された公民権法のもと設立された。人種や肌の色、性、宗教、障害、年齢などにもとづく雇用差別の禁止に関して活動しており、その主な内容は、雇用差別の訴えの受理、調査、和解のための調停、調停に失敗した場合の提訴である。企業や個人に対する雇用平等教育も行っている。
EEOCの委員は5人、大統領の指名と上院の過半数の賛成によって任命され、任期は5年である。EEOCは州レベルでも事務所を置くなどして活動しており、計2800人の職員が働いている。
EEOCには年間8〜10万件の訴えが持ち込まれるが、それらは限られた人員と資源で、また深刻さの程度に関わらずどれも同じ手順で処理されていた。そのため多くのケースが処理されないまま後積みされ、1994年にはそれが約11万件にのぼった。
私は新しいシステムを導入し、訴えをより迅速に処理できるようにした。つまり、ケースをA:事態が深刻で速く処理する必要があるもの、B:調査をして事実を確認する必要のあるもの、C:根拠が弱く、却下することが多いもの、にランク付けし、訴えを受理する期間も事件発生から6ヶ月以内としたのである。このシステムにより、後積みされるケースは約50%減った。
EEOCに訴えられるケースの大半が十分な証拠を備えたものはないので、その場合はすぐに却下する。証拠がある程度揃っているものは調査を行い、そのケースが差別にあたるかどうかの判定を行う。調査を行ったケースの10〜20%に差別の根拠が見つかり、和解のための調停を行うが、企業が調停に応じない場合は連邦裁判所に提訴する。裁判所に提訴されるのは年間約500件である。これはEEOCへの訴えの総数から見ると少ないが、裁判の結果が他の職場や法律にもたらす影響は大きいので、非常に重要な意味を持つ。
どうすれば法律に違反せずに企業活動ができるかという質問をよく受けるが、社内で一切の差別を認めないという風土が徹底されていればそれが一番強い武器になる、というのが私の答えである。EEOCが扱った米国三菱自動車のセクシュアル・ハラスメント事件は非常に大規模なものだったが、同社は現在、差別に対し一切寛容になってはならないという「ゼロ・トレランス」の風土を社内に徹底させようとしている。企業にとって一番望ましいことは、差別的な事件が起きたとしても社内で対処できるようなシステムを作っておくことだと思う。
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柏木 宏
差別に対する考え方や対応の日米の違いをあげると、日本では差別を社会的な不正、道徳上許されない問題と考えるのに対し、米国では企業にとってのデメリットという経済的な合理性が強くある。また、日本では差別を全体的な問題として取り上げる傾向があるのに対し、米国ではEEOCが雇用差別だけを扱っているように、差別が性格によって分類され、それぞれ適用される法律で定められた差別であるかどうかが問題とされる。雇用差別を見てみると、日本では均等法が女性差別という形で捉えているのに対し、米国では性に基づく差別として男性も対象となる。つまり、通常では差別を受けない強者と思われる人も含めて救済の対象としうるシステムになっている。
EEOCの歴史を見ると、その法律や制度はそれまでの不充分さを補う形で変わってきている。日本では最初からいいものを作ろうとするが、現実的にはある程度形を作ってから変えていくことが重要である。
基本的には、まず差別はあるという前提に立ち、そこからどうすればいいかという議論を組み立てていくことが必要なのではないか。
(河 昭子)