企業の社会的責任とは
この概念自体は、1970年代から広く知られていたが、現在、その内容について広がりと深みを増している。その要因としては、1980年代後半以降の規制緩和、グローバリゼーションの進展がある。
(1)規制緩和と社会的責任:80年代前半は、企業活動について多くの規制がかけられていたものの、後半に入って緩和がすすんだ。しかしながら、自己管理の仕組みを伴うものではなかった。その結果、企業、とりわけ金融機関は暴走し、多額の不良債権を生むこととなった。この反省から、企業自身による自己管理の仕組みが求められているのである。
(2)グローバリゼーション:企業が海外進出をする動機とは、より規制の少ない国家に事業を移すことにより、利潤を増大させることである。しかし、自己規律を伴わない場合、多方面からの反発を受けることとなってしまう(反グローバリゼーション)。このことからも、社会的責任を果たす用意が要請されるのである。
この社会的責任において目的とされている価値としては、1)人権、2)労働、3)環境の三つがよく挙げられるが、実践的には、各地域によって評価される内容には、差異がある。
欧州連合における動き
現在、欧州では経済の退廃が著しい。特に意欲(モラール)が低く、生産性も低下する。その結果、失業問題が深刻化し、地域の荒廃がすすむこととなる。それゆえ、欧州においては、企業の社会的責任として、「失業者を出さないこと」が要請されている。具体的には、従業員に一定の教育の機会を与えることなどである。
この情勢からもわかるように、地域ごとに求められる価値は異なるのであり、日本では必ずしも同一のことが優先されるわけではないのである(おそらくは、消費者・地域社会の権利擁護など)。
SRI法制化の意義
他方、社会的責任を果たす企業に対して、市場の側で評価する動きがある。それが社会的責任投資(SRI)である。その手法としては、ポリシーと合致する企業を選定して投資するというスクリーニングと、事業態様をポリシーに近づけるように要請する直接的対話とがある。こういった投資行動を誘導するための法制が、現在多くの国で進んでいる(英国年金法改正など)。
しかし、その形態次第では、倫理性の名の下に、職業差別を助長する恐れがある(例えば自らのポリシーに合わない企業への投資を差し控えるネガティブ・スクリーニングなど)。そこで、日本独自のSRIの形態を考案するべきだろう。結論的にいえば、業務に対する誠実な姿勢(上層部のリーダーシップ、社内の仕組み、遵守)を評価する形態が望ましい。そのようなものとして、昨年、R-BEC001を公表した。
このような動きがマーケットでの評価に直結する必要がある。それゆえ、投資信託のみならず、公的年金や、財政投融資によるSRIを導入することが望ましいだろう。
ISO COPOLCOでの議論
現在ISO(国際規格化機関)では、企業社会責任の評価に関する規格化が大詰めを迎えており、来年作業部会を立ち上げ、2005年に運用開始の予定である。とりわけ議論になっているのは、責任についての具体的内容(価値観)を含めるか否か、あるいは第三者認証を導入するか否かである。報告者の見解では、地域により価値が異なる以上、マネジメントシステム規格にとどめ、第三者認証についても慎重であるべきだ。
米国のBC-MSS(企業行動マネジメントシステム規格)の構想
他方米国では、「連邦量刑ガイドライン」(企業犯罪における罰金額に関するガイドライン)に沿った形での規格化の動きがある。当該ガイドラインは、「犯罪関与職員の権限」、「犯罪歴」、「保護観察条件違反の有無」、「司法妨害の有無」「違法行為防止等のためのプログラムの有無」、「当局への協力的姿勢の程度」といった基準に照らして、罰金額を算出するものである。評価の基準としては、実体的な倫理内容を含んでおらず、マネジメントのあり方に焦点を置いており、報告者の見解に近いといえる。
公益通報者保護制度のあり方
今ひとつ重要な動きとして、公益通報者(日本では「内部告発者」と呼ばれている)を保護するための制度化がある。その態様には大きく分けて米国型(報酬付告発奨励)と英国型(段階的告発保護)とがあり得る。前者だと、私益による告発が増加するきらいがあり、望ましくないであろう。また、企業内部での解決を図るという意味では、まず社内での告発を優先する制度が望ましい。加えて、規制機関に行く前に、社外に告発受付窓口を設け、告発者の実名を把握しておくことが重要である。匿名だと、情報源をたどれず、誤った報道を誘発してしまうだろう。
その他の動き
さらに、ニューヨーク州新上場基準や米国SEC(証券取引委員会)での経営責任者宣誓制度拡充の動き、自主行動基準策定、行政処分としての公表に関する基準の問題、日本版FTC(連邦取引委員会)設置の可能性、産業構造審議会での贈収賄防止に関する議論、内部統制研究会(経済産業省)でのコンプライアンス管理の議論、知的財産権の管理の重要性などの動きが若干紹介された。