調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動企業部会 > 学習会報告
部会・研究会活動 <企業部会>
 
企業部会・学習会報告
2003年01月31日
多国籍企業と人権 〜 ASEFワークショップを中心として

香川 孝三(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

 本報告は、人権遵守を定める企業の行動規範について、労働関係についての事項に注目し、さまざまガイドラインの検討を通じて、その問題点を指摘するものである。

はじめに
 2002年9月大阪において、アジア欧州財団(ASEF)の主催で、ワークショップが開催された。そこでは、企業の社会的責任、企業倫理、コーポレート・ガバナンスの問題点を整理し、共通の理解が得られるような努力がなされた。

 また、同様のテーマで、2002年11月に、北京人民大学において、「グローバル化と企業の社会責任」と題したシンポジウムが開催された。ここでは、主として企業の行動規範の受入等についての議論が行われたが、若干の企業が、その取り組みの不十分さについてNGOから厳しい批判を浴びていた。また、日本企業の消極的態度も、指摘されていた。

人権遵守を求める企業行動規範
 それでは、その企業行動規範とは、具体的にはどのようなものであろうか。報告者によれば、企業の社会的責任のあり方を表すものである。日本では、日本経団連が2002年に改訂した「企業行動憲章」がある。一種の企業倫理として、ここでは「公正・透明・自由な競争」を行うとされているが、人権の視点は、直接には言及がない。しかし世界的には、株主のみならず多様な利害関係者への責任を負うとするものが標準となりつつある。

 例えば、IMF-JC(世界金属労連日本協議会)は、労働協約としての行動規範モデルを策定している。ここでは、ILOの1998年宣言における中核的労働基準を反映するものである。ただ、企業倫理を労働組合が監視することとなり、企業としては難色を示している。また、国際自由労連(ICFTU)やゼンセン同盟も、モデル企業行動指針を策定しているが、その成果は芳しくない。

 また、国際的な取り組みとして、国連におけるグローバル・コンパクトがあり、人権、労働、環境の分野で、企業との協働が始まっている。さらに、私的セクターでの動きでは、SA8000、サリバン原則などがある。

課題
 こういった企業行動規範の問題点として、まず挙げられるのが、モニタリングである。この行動規範の遵守については、基本的に企業の任意に任されている。その点で、実効性について限界がある。ただし、事実上の制裁はありうるだろう。

 次に、取引先や下請企業にも遵守を求めており、遵守支援をすることが述べられているけれども、その範囲をどこまでにするのか、制裁をどうするかという問題がある。IMFには定義があるが、その他の取り組みでは無い。また、違反の際の対応も、契約破棄を求めるものもIMFのみで、基本的に交渉によるとしている。

 モニタリングの方法については、多様な方策があり得る。しかし問題は、モニタリングのコストを誰が負担するのかという点、違反の際に、自主的是正に任されるという問題がある。

 最後に、説明責任の取り方について、悩ましい問題がある。つまり、企業進出先の法律と、行動規範との間に抵触がある場合、どうするのかという問題がある。マレーシア経済特区での団結権制約(強制登録制度)や、児童労働が、進出企業の行動規範と矛盾するという事例がある。その際、企業はどのように行動すればよいのか、極めて困難な問題である。

<質疑応答>
Q:児童労働について、全面禁止だと子ども自身が困るということだが、具体的にもう少し教えてほしい。

A:インドでは、例えばサッカーボール生産に関わって、極めて悩ましい問題が生じている。サッカーボールは、牛革を用いているが、インドのカースト制度や児童労働と密接に関わっている。ヒンドゥー教では、牛の死骸を扱うのは不浄とされ、ダリットしか扱わない。そして、ダリットの人たちは極めて困窮しており、公式試合に使用される手縫いのサッカーボール生産を担う家内工業では、児童が従事せざるを得ない。この状況を改善するために、ILOが介入して、教育の機会を確保したり、貧困克服の取り組みを行ったりして、児童労働解消に努めている。しかし、すべてをカバーすることができず、他の産業に児童が流れていくという状況もある。