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04.02.03
部会・研究会活動 <企業部会>
 
企業部会・学習会報告
2003年10月27日
企業の社会的責任と人権(1)

人間尊重の企業集団をめざすイオンの取り組み
〜お客様中心の経営

辻 晴芳(イオンúXコーポレートブランディング部長)

CSR導入の経緯とその概要

 現在流通業界は大変な時代を迎えている。店舗設置に関して規制が緩和され、競争が激化しいる。その結果外国資本が日本にも上陸している。このような経営環境の中で勝ち残るために改革を要するが、そのキーワードが企業の社会的責任(CSR)だ。

 イオンは1989年に基本理念を作成したが、これはお客様を中心に、平和、人間、地域を軸にしている。しかし理念がお客様に根付くには、単に宣伝・広告ではなく、日々の買い物を通じた記憶に残る体験が必要だ。そのようなイオンのブランドを醸成するために、コーポレートブランディング部を設置した。ブランド戦略グループと企業倫理推進グループ(イオン行動規範チーム・イオン21チームから構成)がある。

イオン行動規範

 2001年に倫理綱領の策定に着手したが、その後専任部署を設置して作業を行った。本年4月に行動規範を公表したが、それまで何度もトップとの議論を重ね、苦心の末に完成した。現在では、この行動規範に関して、全従業員に対し研修を進めている。

イオン21プロジェクト

 2001年の社名改称以後、「どのような会社が一番いいのか」についてお客様から聞こうということで、イオン21活動を開始した。従業員を含む10万件もの意見の中から、社会的価値を提供しうる戦略課題を選び出し、具体化していく取り組みだ。お客様の視点からより楽しく便利なお買い物ができるよう、「お客様副店長」を設置したり、衰退しつつある地方の名品を共に販売しようというフードアルチザン、開発途上国の生産物に若干価格を上乗せし、その利益をその文化・生活向上に貢献するフェアトレードなどがこの取り組みにから生まれた。

 報告者はフェアトレードの関係で、タイやインドネシアの熱帯雨林の村落を訪れたが、こちらで想像するニーズではなく、当地の人々が真に切望する貢献を行うことが大切だと感じた。さらに、「幸せのイエローレシート」キャンペーンも毎月11日に行われている。

 社会活動団体のBOXにお客様がレシートを入れると、その金額の1%分を当該団体に寄付するというものだ。報告者が店長を務めた際、養護施設の設置を進めている団体のためにバザーを行ったが、その団体で活動している方が涙を流して感動している場面に偶然遭遇した。

 また、この取り組みに参加したメンバーが、他のボランティア活動に目覚めていったことも大きな成果だ。その他、多くの提案がこのプロジェクトに寄せられているが、現在重要な課題は、身障者用駐車スペースが常に空いている状態にするにはどうすればよいか、という点だ。

企業倫理とCSRの関係

 イオンの考えるCSRには4点ある。経済的責任、法的責任、慈善事業的責任、そして倫理的責任だ。最後の倫理的責任は、お客様が企業に期待することに応える、という点であり、社会貢献活動とは質的に異なる。この点を踏まえつつ、倫理的責任を果たしていきたい。イオングループは、現在大規模になっており、各社の独自性がある。ただ、基本的な価値観を共有することが重要であり、そのためにプラットフォームを策定した。現在では、グループ各社トップの理解を得て、更に関心を持ってもらうよう、研修を行っている。

企業ブランドとしての「お客様中心の経営」

 現在、イオンのブランドとしては、何よりもお客様のためにという点を徹底し、真剣に考える会社になるという点を前面に押し出している。自社の都合や利益が中心になっていては、やはり不祥事が発生するだろう。しかし、即座にこのようなブランドが出来上がるのではなしに、今後地道な取り組みを積み重ねていくことで、お客様から評価されてはじめて、定着したといえるのではないか。

ケースメソッドを活用した研修

 現在行動規範に関する研修を進めているが、問題の性質上、やはり個々の従業員にしっかりと定着することが重要だ。そこで、単なる講演より重視しているのが、ケースメソッドだ。具体的な事例を示して、グループで討議していく。そして一定の結論を各グループ毎に発表するというものだが、その際に激しい議論になる。セクハラ事例の場合はさらに激論が交わされる。このような手法を用いて内容を頭に焼き付けていくということだが、各参加者の満足度は高く、部下への説明もしやすくなる点で、かなり好評だ。

調達先への波及

 また、グループ内部のみならず、取引先にも、一定の基準を満たしてもらう必要がある。そのためにイオン・サプライヤー・コード・オブ・コンダクトを策定し、取引先に受け入れていただくようお願いしている。ただ、海外では子どもが手伝っていることが普通な場合もあり、児童労働との関係で問題があるが、こちらで一方的に非難するのではなく、説明を積み重ねて理解していただくようにしている。

従業員への配慮

 当初従業員を大切にするという部分が冒頭にあったが、その具体的な内容について延々と議論した。結論的には、従業員自身が大切にされるとともに、従業員も他の人を大切にする。各人が尊重されていることが重要だ。人間を尊重すること、これが最大の仕事だ。

CSRに取り組む心構え

 ここで悩ましい問題は、経営トップの意向に基づいて社員が動く、という構図だ。利潤追求の暴走も、このような構図がなせるものではないか。「社長がこう言ったから」ではなく、やはり何が正しくて何が誤りか、という価値基準をしっかりと確立していくことが重要であろう。また、このような取り組みについて日本ではなかなか評価されないが、より適正な評価が進めば、人権も含め、人間に優しい企業が増えていくのではないだろうか。

(文責・李 嘉永)