企業の社会的責任とは何か
日本において社会的責任投資(SRI)とは、企業の社会的責任(CSR)に優れた企業に対する投資である。CSRとは、経済同友会の第15回企業白書では、「全てのステークホルダーを視野に入れ、経済・環境・社会など幅広い分野での社会ニーズの変化を捉え、(中略)企業の競争力強化や持続的発展とともに、経済活性化やよりよい社会づくりを目指す取り組み」とされている。この間の経緯で言えば環境が重要なファクターで、ここに多くの企業が積極的に取り組んできたが、CSRでは、社会面が取り入れられている。しかもこの動きは、一過性のものではなく、確固たるものになっている。
SRIの歴史
そもそもSRIは、教会資金運用にあたり、タバコやギャンブルに関係する企業への投資を差し控えるというキリスト教倫理に基づいたものであったが、1960年代・1970年代には反アパルトヘイトや公民権運動といった市民運動と結びついた。そして1990年代には爆発的に拡大するが、その背景には、確定拠出年金といった個人の投資を可能にする枠組みが増加したことが上げられる。また欧州においては、国家がイニシアティブを取ってCSRを促進している。企業の自助努力によってEU全体を発展させようという発想だ。その結果、現在SRI残高は米国で200兆円、世界全体で300兆円を超えている。
CSRの意義
CSRの出発点として、まずステークホルダーを特定することが必要である。現在、株主に加えて、顧客、一般消費者、取引先、調達先、地域社会、NGO、マスコミ、行政などが挙げられ、これらに配慮し、バランスをとりながら経営を進めなければならない。「社会貢献活動」よりもかなり広く、経営そのものに直結する概念である。また、CSRをコストと捉える向きもあるが、その内容を吟味すれば、リスク・マネジメントの側面と、ビジネス・ケースの側面とを兼ね備えている。この両側面を通じて、最終的に企業は利益を得る。つまり、企業価値が拡大する。
CSRと企業価値
いま少し詳述すれば、企業価値には財務的価値と非財務的価値とがあり、株価はこの両者から形成されるということだ。例えば、サプライチェーンの選定という非財務的側面で失敗すれば、結局大きなコスト負担を強いられることがある(下請け企業の製品に有害物質が混入する場合など)。他方、様々な投資家層もまた、CSRに優れた企業に投資したいという訴求ポイントを多かれ少なかれ持っていることが明らかになっている。
金融機関として果たすべき社会的責任
また現在、世界では、金融機関が、その金融活動を通じて他のセクターに積極的に働きかけるよう求める動きがある。その一つとして、国連環境計画が立ち上げたUNEP-FIがある。この動きに呼応して、住友信託銀行では、CSR専門部署(社会活動統括室)を設け、また部門横断的なCSR委員会を設置した。また推進ビジョンとして、経済、社会、人間、環境の4つのテーマを設け、果たすべき責任を二段階で示している。金融活動を通じたCSRとしては、預金を貸し出す際にCSRのフィルターにかけるといったことを行っている。また、株式投資という形でSRIを開始し、実際にファンドを創設した(新生銀行とKDDIの企業年金を運用)。
SRIの超過リターン源泉
ただ、株式投資である限りは、パフォーマンスが上がらなければならない。勿論シミュレーション上は、CSR優良企業は株価全般に比べてパフォーマンスが良好であるが、より内在的な説明が求められている。CSR推進と株価との関連性を具体的に示さねばらない。
企業倫理を徹底させれば「誠実な企業だ」としてブランドイメージが向上し、人材育成が徹底すれば有能な人材が集まるだろう。これらは結果的に企業の財務リターンを向上させ、株価の向上に繋がると考えられる。リスク管理の側面からは、CSRを怠り、不祥事が発覚すると、株価が急激に下落するファットテイル現象を導き出す。逆にいえば、投資判断においてCSRを検討することは、ダウンサイドリスク抑制に繋がるということだ。
ただし、CSRを分析するに当たり、企業へのアンケートにかなり依存しなければならず、その回答にはデフォルメがあるかもしれないという危惧はある。
住友信託の運用方針
住友信託の評価軸としては、経済・環境・社会・法の4つの観点から企業評価を行っている。ただ、ネガティブ・スクリーニングは採用せず、それぞれのセクターのなかでCSRについて相対的に優良な企業を選択する方針をとっている(ベスト・イン・クラス)。その際悩ましい問題は、欧米では人権問題への比重が大きいが、内容的に日本国内で求められているものと相違がある。その際、両者でいかにバランスをとるかが重要になってこよう。
各方面からの反応
SRI開始後、企業関係者からは、アンケートに熱心に答えるようになったとか、情報をより積極的に開示していきたいといった反応があった。また、投資家の反応としては、SRIへの肯定的な層の比率は、驚くべき高さであった。いずれの投資家層も、それぞれ訴求ポイントを持っており、こういった層をSRIにつなぎきれなかったのは、むしろ提供者たる金融機関にあったといえるのではないだろうか。
SRIの社会的意義と金融機関の責任
結論的に言えば、SRIとは、投資という手段を用いて、投資家から「社会的責任マネー」とも言うべき資金を引き受ける器だといえる。サプライ・チェーンや間接金融ほどの強力な影響をもつ訳ではないにせよ、SRIはあらゆる方面からの資金を集約する意味で普遍性をもっている。これが固有の強みだ。この集約に金融機関はどれだけ貢献できるか。これが課題だといえる。
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