調査研究

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2004.11.18
部会・研究会活動 <企業部会>
 
企業部会・学習会報告
2004年10月20日
『企業における人権の取り組みに関する調査』結果について

(報告) 中村 清二(部落解放・人権研究所)

 部落解放・人権研究所では、本年6月から8月にかけて、大阪同企連企業32社の協力を得て、「企業における人権の取り組みに関する調査」のプレ調査を実施した。その調査結果の分析を一定終えたため、その分析結果について、中村研究部長より概要を報告した。

はじめに

 この調査の前提として、既存のCSR(企業の社会的責任)調査において人権尊重に関する項目が不十分であったことが挙げられる。すなわち、他のCSR調査では、企業倫理やコーポレート・ガバナンスなど、他の課題と平行して質問項目を策定している関係上、どうしても相対的に人権課題の比重が低くなる。また、部落問題については、現在のところいずれの調査においても質問されてはいない。

 さらに、部落問題も含め、企業において人権課題に取り組む際に、方針を策定し、体制を構築し、実施し、見直していくというPDCAサイクル(Plan:計画・方針、Do:実施・運用、Check:点検、Act:見直し)を確立することの重要性が、既存の調査ではどうしても希薄である。このことから、当研究所では、各企業ごとの自己診断と、全体的傾向・ベストプラクティスの把握のために、当該調査項目を策定したところである。

調査企業の概要

 昨年より、一定の項目策定に努めてきたが、本年、ひとまず大阪同企連企業の協力を得て、プレ調査を実施した。企業の業種については、可能な限り満遍なく多様なものとなるよう配慮している。

 主な調査項目の枠組としては、

  1. 社のプロフィール
  2. 人権問題の取り組み方針
  3. 男女平等の取り組み
  4. 障害者自立支援の取り組み
  5. 部落問題の取り組み
  6. 非正社員の均等待遇
  7. 企業倫理と人権
  8. 社会貢献活動と人権
  9. NGOとの関係
  10. 情報公開

となっている。これらの各項目を、上記PDCAサイクルの観点から分析した。

調査結果の分析

 その中で見えてきたことは、まず前進面として、人権に対する社のメッセージとして、企業倫理やCSRに関する方針という、企業の根幹に関わる文書に、人権の尊重がかなり位置付いてきている点である。次に、具体的な人権課題についても、特に部落問題に関して広く実施されている様子も浮かび上がってきた。特に、大阪における「就職困難層」の雇用に関する取り組みが、積極的に行われていることが見て取れる。さらに、様々なベストプラクティスが把握できたことは、極めて貴重である。

 例えば、昨今多数作成されている社会・環境報告書に、人権課題についての取り組みやメッセージが掲載されている。また、女性や障害者のエンパワーメントのために多彩な取り組みを行ったり、入社試験において人権問題を出題するといったユニークな取り組みもある。さらに本業を活用した取り組みとして、鉄道会社では社内での人権啓発放送や駅構内での人権啓発ポスター枠の設置、さらに住宅や食品、車両などのユニバーサルデザイン化などの取り組みも見られた。また、重要な点は、協力いただいた企業のいずれもが、何らかの課題について、改善や実施の方向で検討しているということである。

 他方で、いくつかの課題も明らかになった。まず挙げられるのは、PDCAサイクルが弱いこと、特にC・Aの側面が弱いという点である。研修や雇用の関係で取れ組が進んでいる部落問題についても、方針を策定している企業は半数ほどであったし、人権に関する経営トップのメッセージも、7社しか公表していなかった。部落問題に関する意識調査を実施していたのは、3社であった。このことから、今後人権課題に関する総合的なPDCAをいかにして確立するかが課題であることがわかる。

 また、国際化への対応についても、弱さが見受けられる。海外事業展開企業28社のうち、独自に現地での人権尊重を明文化しているのは5社であった。多くの企業で、実際に現地で訴訟に直面していることも念頭におけば、やはり課題であるように思われる。また、情報公開についても、こと人権については、弱いといえる。

研究所調査の今後の課題

 今回、プレ調査ということもあって、多くの協力企業から、意見をいただいた。そこから、例えば調査項目の多さや、質問事項の理解の広狭などについて、課題がある点をご指摘いただいた。この点を精査することは極めて重要な課題である。

 また、今回は技術的な点から割愛した外国人の権利に関しても、その把握がいかにして可能かを考える必要があろう。とりわけ、オールドカマーとニューカマーの実態の違いを念頭において、どのような項目策定が可能か、検討する必要があろう。その他、調査体制の確立や、他の利害関係者との連携、企業による既存の公表資料の検討なども、必要になってこよう。これらの課題に取り組みながら、よりよい項目の策定と、調査の実施に努めていきたい。

 (李 嘉永)