調査研究

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2006.05.17
部会・研究会活動 <企業部会>
 
企業部会・学習会報告
2006年03月22日
「従業員の個人情報の取扱いに関する調査」結果について

李嘉永(部落解放・人権研究所)
   竹地 潔(富山大学 助教授)

〈第1報告〉

 2006年、部落解放・人権研究所は、「労働者の個人情報保護」研究会を設置した。この研究会では、個人情報保護法の全面実施を受けて、各企業において、個人情報、とりわけ従業員の個人情報の取扱いについて、法の趣旨に沿った取組みがどの程度進められているかを研究することとした。その一環として、「従業員の個人情報の取扱いに関する調査」というアンケートを実施したが、本報告は、その結果の概要である。

 大阪同和・人権問題企業連絡会や東京人権啓発企業連絡会、大阪市企業人権推進協議会、堺市人権教育推進協議会に加盟する企業、ないし、当研究所特別会員として入会している企業のご協力を得て、計411社から回答を得た。

 個人情報保護一般に関する取り組みとしては、方針・規程の策定、管理者の選任、教育訓練の実施状況を質問したが、これらについては概ね7割弱の企業が取り組んでいる。ただし、教育訓練を実施する企業の比率がやや低く、社内体制整備に比して、タイムラグが見受けられる。

 従業員情報の取扱いについては、まず、情報の取得状況を質問した。8〜9割の企業が取得しているもの、4〜5割のもの、1割未満のものに概ね分類できるが、1割未満の情報(資産・債務状況など)についても、本人以外から取得している企業が存在している点は、懸念される。

 また、従業員情報の取扱規程、教育・研修については、6割未満となっており、個人情報一般に比べてやや数値が落ちている。他方で、責任者の選任に関しては、68%と、一般に比して高い。同意の取得方式については、7割の企業が個別に取得しているが、中には包括的同意方式を採用する企業も15%ほど存在する。

 不採用者情報は、9割の企業が直ちに返却・廃棄するか、一年以内に廃棄している。複数年保存している企業は1割に満たない。他方で、退職者情報は、資格取得のための照会や、OB・OG会運営のために長期間保存する企業が多く、適正な管理が求められる。

 第三者提供に関する同意取得について言えば、包括的同意を採用する企業と、提供の都度同意を取得する企業とが拮抗している。前者については、法・ガイドラインが求める程度の目的・提供先の特定性が確保されているか否かが問題となろう。

 開示・訂正の請求については、一部・全部について応じている企業が合わせて9割となっており、2002年の調査結果に比して、改善が見られる。また、中小企業において、より精密に対応している状況が明らかになった。なお、開示に応じていない情報としては、人事関連情報を挙げる企業が多いが、その比率も2002年に比して改善が見られる。

 課題として浮き上がった点は、従業員情報の取扱いに関する対応がやや遅れていること、中小企業・取扱事業者非該当企業への浸透をどうはかるか、さらには、管理体制の実効性確保をどう進めるか、といったものである。

〈第2報告〉

 上記のアンケート調査と並んで、従業員情報の取扱いの実際の取り組みを掘り下げるため、民間企業2社にヒアリング調査を行った。とりわけ、その実施にあたって工夫・努力した点、または苦労した点などについても聞き取るよう心掛けた。

 社内規程については、既存の規程に対して、法の趣旨に照らして改訂を加え、かつ、従業員情報の取扱いについても別途規程を策定した。これらの規程の理解を深めるために、社内イントラ・E−ラーニングなどを通じて、周知を図ってきた。いずれの企業でも、個人情報保護全般に関する管理体制が整備されているが、従業員情報については、統括部門の指導のもと、人事労務部門が具体的な保護の対応を実施している。チェック体制としては、コンプライアンス部門による内部監査を実施するとともに、外部監査を導入している。

 採用段階の取り扱いとしては、まずリクルーターの問題があるが、これらの仕組みは現在活用していないが、インフォーマルな訪問を受ける際には、個人情報の問題も含め、後輩学生に誤解を与えないように指導をしている。また、エントリーシートの活用については、仕事上のミスマッチを回避するために用いており、属性情報取得を目的としてはいないとのことである。

 健康情報については、健康管理部門が一元的に管理しており、厳重な安全管理措置を適用している。また、メンタルヘルス情報についても、従業員の同意がない限り、上司や人事部門に提供されることはない、という。ただし、療養後の職場復帰の際には、個人情報保護との関連で難問が生じている。すなわち、復帰当初は短時間就労にならざるを得ないが、その点について他の同僚の理解・協力を得るためには、復帰者の状況について知らせなければならないためである。この点をどう調整するかは、悩ましい問題である。また、復職の判断と本人の意向とが合致しない場合、本人との間で粘り強く対話を行う必要があるとのことである。

 人事考課情報については、いわゆる成果主義人事制度を採用している関係上、評価結果について従業員の納得性を高める必要がある。そのため、上司に対し、フィードバックを徹底するよう指導しているが、その一環で、人事考課情報についても一定程度開示されている。

 退職者情報については、保存義務のないものについて保存すべきかどうか、悩ましい問題がある。資格取得のための経歴証明や、退職者による不正行為の発覚等に備えて、一定期間保存する必要があるためである。

 さらには、たとえば出向に際しての従業員情報の提供については、可能な限り包括的同意によって対応しているが、従業員にとって想定外の企業への出向の際には都度同意を取得しなければならない。また、共同利用やオプトアウト方式については、共同利用先に対する管理や、本人意向の即時反映などの対応が必要となり、企業規模が大きい場合には、困難が多いとのことであった。

(文責:李嘉永)

※なお、この調査の内容については、『部落解放・人権研究報告書 No.2 「従業員の個人情報保護」の現状と、啓発の課題』を参照されたい。