部落解放・人権研究所は、2005年度、CSR報告書や環境報告書、金融機関のディスクロージャー誌(以後、企業報告書と総称する)を収集し、かかる報告書において人権問題に関する取り組みがどのように記載されているかについて検討した。
1.全般的状況
まず、報告書の性格をあらわす名称を分類したが、環境報告書が132誌、CSR報告書が77誌、環境・社会報告書が128誌であった。ただし、環境報告書においても社会性について記載している事例もあり、今後タイトルを変更する企業も増加するものと思われる。
CSRを進めるに当たって、トップの意識変革が重要となるが、その点で、CSR報告書でも36誌が人権尊重について明言している。また、CSR推進の基本文書である企業方針や行動憲章などに人権を明示しているのは241誌であるが、中には目標と実績を含む詳細な情報が記載されている例もある。実際の人権尊重の取り組みを記載するのは142誌であった。
取り組みの不断の改善を図る上で、実際の課題を明確にすることが不可欠であるが、企業報告書でも、様々な人権問題に関する課題を明示する例がある。中でも、労働災害(20 誌)、障害者雇用率(24 誌)など、法令上数値的に報告を求められている課題についての記載事例が多い。また今日、調達の際に人権についても配慮していくというサプライチェーン・マネジメントが重視されているが、CSR調達基準を記載する企業が34誌、取引先調査にまで踏み込むものが17誌あった。
本業において人権に配慮している企業は153誌となっており、その多くはユニバーサルデザインに関する取り組みであった。
2.個別課題
人権問題を担当する社内体制として、社内横断的な組織を記載するものは150誌であり、事務局的な組織は48誌であった。また、公正な採用選考(68誌)・就職困難者の積極採用(5誌)を記載するものもあった。人事評価基準に人権を組み込む事例は見出せなかったが、人事基本方針に人権尊重を謳う企業が見受けられた。
個別法令上義務づけられている取り組みの紹介事例は非常に多く、育児・介護支援の利用数/率はのべ168誌、セクハラを中心とする人権問題相談制度は137誌、障害者雇用率は172誌に登っている。育児休業について、男性取得者の声を記載する事例も見出された。労働基準については、労働基本権の記載(82誌)、労働時間適正管理(34誌)、児童労働・強制労働禁止(31誌)と、比較的低調である。他方で、女性管理職数の記載は74誌となっており、以前大きな較差は存在するものの、男女共同参画に積極的に取り組む姿勢が明示されている。
他方、今日格差問題の中心課題として社会問題化している非正社員の数については、金融機関がディスクロージャー誌で開示しているものを除けば、37誌と低調である。ただし、処遇改善について先進的に取り組んでいる記載事例が見られた。
人権啓発活動について言えば、記載事例は106誌であった。中には、研修のテーマやねらいを明示するもの、理解度調査の実施など、踏み込んだ取り組み紹介を行っている企業があった。
全般的にいえることであるが、実際に取り組んではいるものの、編集方針上割愛されている企業もあるようだ。このことから、社会性を盛り込んだ報告書に発展させる際に、人権に関する記載が増えていくことを期待したい。
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