調査研究

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2008.04.21
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企業部会・学習会報告
2007年01月30日

『2006年度版 CSR報告書における人権の記載状況』研究の調査結果について

1.李嘉永(部落解放・人権研究所)
2.中村清二(部落解放・人権研究所研究部長)

 2005年度版に引き続き、2006年度版のCSR報告書を収集し、人権情報の記載状況について分析を進めてきたが、このたび「部落解放・人権研究報告書 No.9 2006年度版 CSR報告書における人権情報」として取りまとめた。その内容について報告した。

〈第1報告〉

 第1章では、CSR報告書の意義と近年の動向を述べているが、CSR報告書の意義としては、CSR活動それ自体としてステークホルダーと対話することが求められており、そのツールとして機能していることを指摘している。環境省は、このような報告書の機能として、(1)情報開示機能、(2)情報提供機能、(3)CSR活動促進機能、(4)方針等の策定・見直し機能、(5)意義付け・活動促進機能を挙げている。つまり、CSR報告書をまとめること自体がCSRを促進することにも繋がるという趣旨である。近年の動向として、グローバル・コンパクトでも活動報告にこれらのCSR報告書を活用する方向にあること、各種ガイドラインが改訂され、人権問題もより充実しつつあることなどを紹介している。

 第2章では、実際の調査結果を「全般的傾向」と「個別課題」に分けて、主に2005年度版の傾向と比較検討している。全般的な傾向としては、CSRを報告書タイトルに採用する企業が大幅に増加していること、他方で内容がタイトルに追いついていない事例がみられること、課題の記載が依然として低調であること、サプライチェーン・マネジメントにおける人権尊重がやや増加していることなどが挙げられる。

 個別課題としては、人権尊重の体制作りや公正採用のメッセージはやや増加しているが、就職困難者積極採用や人事評価基準での人権の視点に関する記載は皆無であった。人権問題相談窓口や障害者雇用率の記載は増加しているが、非正社員の雇用形態転換の機会についての記載は稀である。

 なお、人権・同和問題企業連絡会加盟企業の報告書の特徴を別途まとめているが、これらの企業は、一般的な傾向に比べて、特に人権の体制整備、人権啓発、人権相談等で優位性が見られるが、記載が無い報告書も見られる。これは、実際の取り組みがCSR報告書に反映されていないともいえる。他方で、同企連企業らしく人権問題について踏み込んだ記載を行っている事例がある。

〈第2報告〉

 第3章では、タイトルで「CSR」という用語を採用している報告書から、グッドプラクティスを紹介している。社内でCSRサポーターを設ける企業、労働組合代表が参加して非正社員問題に言及したり、人権面での厳しい批判を含めたステークホルダーとの対話を紹介する企業などは特徴的である。トップステートメントでの人権の言及については、社独自のCSRへの基本姿勢や取り組みの文脈で人権を位置付けた言及が行われた例がある。

倫理綱領・行動憲章等での人権の明示に関しては、企業活動の規定に人権があることを明示したり、世界人権宣言やグローバル・コンパクトの理念を反映する例も見られる。

 サプライチェーンマネジメントでは、調達・取引基準を策定するに止まらず、監査・アンケート調査・ヒアリングを通じてモニタリングを行う事例がある。そのほかにも、多数の先進事例について紹介している。

 なお、課題としては、CSR報告書と銘打っていても、人権の取り組みの記載状況には大きな温度差があり、全体の4割の項目で、実際の記載がある企業は3割を切っているのである。また、大半の企業が海外に進出しているが、海外の動向は殆ど触れられていないし、トップステートメントでの人権の言及が「言葉だけ」の記載に終わっている。CSR調達方針の実効性担保の仕組みや結果の明記が少なく、さらには人権が単に従業員の箇所に限定される傾向が強い。さらには、部落問題の記載が極めて少ないことも、指摘せざるを得ない。こうした状況は、ステークホルダーの独立性の弱さと、ステークホルダーの中のコアと周縁メンバーのピラミッド構造という、市民社会の脆弱性がある。このことから、企業が社会と正面から向き合って対話・協働することが難しくなる。このような状況からいかに脱皮するかが問われているといえよう。

(文責:李嘉永)