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2008年06月12日

パワハラ発生…さぁ、どうする?
-ケースから考えるパワハラ防止の取り組み

涌井美和子(社会保険労務士、臨床心理士)


本報告では、報告者の涌井さんがこれまで勤めてこられた中で目の当たりにしたパワー・ハラスメント事案をご紹介いただき、その上で、パワー・ハラスメントの概念を社会要員・組織要因・個人要因を軸に解き明かし、予防策について解説していただいた。

1.ケースの紹介

かつてカウンセリング業務を行っていた病院の相談機関では、基本的に医師が機関のトップを務めていたが、業務内容は所属するカウンセラーが業務を取り仕切っていた。経験の長いカウンセラーが職場に強い影響力を持っており、その中でハラスメントが横行していた。

カウンセリング業務は、経験の長いカウンセラーからスーパービジョンを受けるが、その際に対応のあり方によっては、人間性を非難することに繋がりかねないのである。中には、「自分のことしか考えていない」「やめたら」といったような指導が行われていた。

また、どのようなベテランのカウンセラーに対しても、医療現場を経験すると称して研修を受けさせていたが、その担当医師の中にはカウンセラーの能力を適切に評価するのではなく、全ての評価項目に×をつけ、退職においやるということもあった。

さらには無意味なメール返信の要求、特定の気に入らない職員に対する誹謗ビラ、違法な誓約書の強要、署名拒否者に対する心身症扱いなどが横行していた。その結果心のバランスを崩して休職する職員に対して労災申請を怠ったり、親族の不幸があっても有給休暇申請を拒否するなどのケースが頻発していた。

このような事態が発生する要因としては、絶対的な上下関係がある。大学・大学院を卒業して経験をつむのであるが、その結果、年齢イコール経験年数になる。その結果徒弟制的な状況が生まれ、上が言うことに対して口答えできないという風土が醸成されている。また、カウンセリング業務の性質上、受け身になりがちである。その結果、相手を責めるのではなく、自分を責めがちである。さらに、専門家集団なので、プロ意識が強く、同業者に対して競争的になる。さらに、人が相手の仕事なので、成果が見えにくく、それだけに評価基準があいまいで、自信を感じにくい。このことから、自尊心が持ちにくいということもある。さらに、職種自体も正職員の募集が少なく、退職しづらいということも大きな要因である。これらの点は、今日の多くの職場でもオーバーラップする部分があるだろう。

2.パワー・ハラスメントとは何か

パワーハラスメントについては、現時点では法整備されていないが、まとまった定義として、中央労働災害防止協会によるものがある。当該協会によれば、「職場において、職権などの力関係を利用して、 相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、 精神的な苦痛を与えることにより、その人の働く環境を悪化させたり、 あるいは雇用不安を与えること」としている。力関係のゆがみから、不当な乱用が生じる場合をいうが、上司から部下に対するもののみならず、新入社員による非正規職員に対するもの、吸収合併に伴うもの、マイノリティに対するいじめなど、仕事上の上下関係によらないものも含まれる。

また、形態も、罵倒や身体的な暴力というものだけではなく、不当に低く評価するなどの陰湿なものもある。

ハラスメントが発生する要因には、仕事に余裕がなくなっており、少人数で多忙な働き方をしているなどの社会的要因、均一の組織文化や固定化された価値観などの組織的要因、さらに他罰的な性格やパワーゲームを好むといった個人的要因があるとされている。また、加害者の側に健康的な自尊心が損なわれており、そのバランスを取るために心の鎧で覆ってハラスメントを引き起こすことも指摘されている。期待した成果が期間内に得られないといった時間的要因も考える必要がある。また、世代間のコミュニケーションギャップやコミュニケーションの希薄化がパワーハラスメントを引き起こすことも踏まえなければならない。

パワーハラスメントを直接規定した法制はないが、形態によっては刑法、労働基準法、労働契約法理、労働安全衛生法などに触れることがある。

3.ハラスメント予防策

パワーハラスメントの予防は、社会的要因、組織的要因、そして個人的要因に即して、ケースバイケースで取り組んでいく必要がある。とりわけ、組織的要因に関しては、ハラスメントを許容する組織のあり方を見直すことが重要であろう。その点で、余裕や遊びを許容するマネジメントを心がけ、行き過ぎた部下指導を引き起こさないような労務管理を進めることが求められる。

具体的には、マネージャーが余裕を持てる組織にするために、仕事の範囲を明確にしていくことが重要である。また、ハラスメント防止のガイドラインを定め、社外のカウンセラーを配置し、匿名で相談できる仕組みを整備すること、研修を定期的に実施すること、コミュニケーションを円滑に行い、懐の深い、風通しの良い組織づくりを進めることが求められよう。

また、コミュニケーションのあり方としては、非言語メッセージの重要性を示し、相手の言外のメッセージを汲み取り、想像力を鍛えることが重要だ。

さらに被害者対応としては、まず保護と安全の確保が最優先である。そしてプライバシーを守りながら、肯定的に相談を受け、本人の意向に沿って、解決に向けた落としどころを探る必要があろう。加害者に知られたくない場合、人事異動の際に距離を置くなどの工夫が必要である。

いすれにしても、ハラスメント防止のためには、コミュニケーションのあり方、そしてやはり組織のあり方を理解し、その上で見直しを図ることが重要である。

(文責:李嘉永)