調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動企業部会 > 学習会報告
2009.03.27
部会・研究会活動 <企業部会・啓発部会 >
 

企業部会・啓発部会 合同部会

2009年02月09日

2008年度版 CSR報告書における人権情報のグッドプラクティス

李嘉永(部落解放・人権研究所)


(1)調査の目的と概要

 当研究所は、2006年度より、各企業が発行しているCSR報告書を収集し、人権問題に関する記事について分析を進めてきた。2008年度においては、各検討項目について、内容的に踏み込んだ記事や、工夫を凝らしたものを「グッド・プラクティス」として紹介することを通じて、企業における人権の取り組みのひろがりを共有し、各社の取り組みの参考に供することを目的としている。また、企業のみならず、様々なステイクホルダーが企業における人権の取り組みについて関心を高めることも、今ひとつの目的である。

 調査の方法に関しては、2006年度の実績から、充実した記載が期待できる報告書を重点的に収集し、323社の報告書を集めた。これらをCSR報告書における人権情報記載状況研究会の構成メンバーがそれぞれ担当し、グッドプラクティスを抽出した。これらを、次に挙げる選定基準に沿って精査し、グッドプラクティスの一覧表を作成した。さらにその中でも特徴的な記事を、グッドプラクティスの具体例として、その実例を紹介している。

(2)好事例の選定基準

 好事例の選定基準に関しては、分野に共通した基準として、1.PDCAサイクルが意識されていること、2.企業に固有の特徴があること、3.海外での人権やミレニアム開発目標に関連していること、4.非正規社員に関連していること、5.CSR活動の指標化が行われていること、である。また、個別テーマに関しては、本業に関する取り組みについては基本的に全てを対象としたほか、それぞれの項目において、具体性や特徴的な内容であることを一定の基準とした。

(3)CSR報告書から見る企業における人権尊重の取り組み

 具体的な項目の柱としては、企業情報、トップステイトメント、企業方針・行動綱領、具体的な活動、外部評価、CSRの指標化の6つがあり、これらのそれぞれについて、細目を定め、各カテゴリーについてグッドプラクティスを紹介した。

 CSR体制については、日立製作所が7分野での事業活動における人権の尊重を図式化している。また、トップステイトメントに関しては、ヒューマン・ヘルス・ケアの理念を共有する取り組みを紹介しているエーザイ、世界の貧困問題や健康問題に関する取り組みを示した住友化学の事例がある。

 企業方針に関して、東芝は、グローバルコンパクトに参加した際に、行動憲章を改定したとしている。また、サプライチェーンマネジメントに関して、帝人は、取引先調査の結果を公表している。

 活動報告に関しては、非正社員を含めた従業員の人権を推進する東レ、従業員満足度調査を実施したニチレイなどを紹介した。また、セブン&アイホールディングスは、女性管理職比率をグループ全体と各グループ企業それぞれを明記している。高齢者雇用に関して、イオンは、モチベーション維持のために、再雇用から定年延長に切り替えたとしている。佐川グループは、違法な派遣労働の概要と経緯、再発防止対策を明示した。これはCSR報告書の本来的機能、すなわち社会に対して不祥事を含めた情報を示し、不断の改善を図るという機能を適切に果たしている事例と言える。本来業務を通じた人権尊重の取り組みとしては、難民支援協会と連携して「難民専用フリーダイヤル」を開設したNTTコミュニケーションズの事例を紹介した。

 これらのほかにも多彩な事例を報告書では紹介している。これらを参照していただき、各社の取り組みの参考としていただくことを期待したい。

(文責:李嘉永)