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企業倫理と人権・部落問題調査報告書
(1)日本電気株式会社(NEC)
1) 会社の概要

1899年(M32)に創立したNECは、現在、コンピュータ、通信機器、電子デバイス、ソフトウェアなどの製造販売を含む、インターネット・ソリューション事業を進めている。

資本金は2447億円(2002年3月末現在)、2001年度の売上高は3兆5624億円(連結では5兆1010億円)、従業員数は3万2054名(2002年3月末)である。グループとしては会社数223社(うち海外101社、2002年4月現在)、従業員約19万1000名におよんでいる。

2000年4月の経営構造改革により社内カンパニー制が導入され、「コーポレート」(全社に関わる)、「NECソリューションズ」(企業・個人市場)、「NECネットワークス」(ネットワーク・オペレーション市場)、「NECエレクトロン・デバイス」(装置ベンダー市場)、という大きな構成となっている。



2)企業倫理の取組み

A.現状

NECの場合、企業倫理に直接関わるものとして1999年に「NEC行動規範」(以下、「行動規範」)が制定され、ホームページにも掲載されている。これは1997年に制定された「NEC企業行動憲章」で表された行動のあり方のうちで、遵法だけにとどまらない企業倫理の観点から役員・従業員一人ひとりが日頃心がけるべき基本的なことを規範として定めたものである。それをもとに、各種社内規定や各種マニュアルが存在している。

「行動規範」の具体的な柱は、以下のような構成となっている。

  1. 総則
    1. この規範の趣旨および適用範囲
    2. 基本姿勢
    3. 規範遵守の責任
  2. 社会との関係
    1. 寄付行為
    2. 政治資金
    3. 反社会的行為への関与の禁止
    4. 環境保全
  3. 顧客、取引先、競争会社等との関係
    1. 製品・サービスの安全性
    2. 自由な競争および公正な取引
    3. 購入先・協力先との取引に関する方針
    4. 販売店等との取引に関する方針
    5. 接待・贈答等に関する方針
    6. 輸出入関連法規の遵守
    7. 宣伝・広告等に関する方針
  4. 株主・投資家等との関係
    1. 企業情報の発信
    2. インサイダー取引の禁止
  5. 会社財産・情報の管理
    1. 会社財産の管理および適正使用
    2. 秘密情報の取扱
    3. 知的財産権の保護
  6. 運用体制
    1. 運用体制
    2. 照会先

このなかで、人権については「úJ−2の基本姿勢」のところで「(2)私たちは、あらゆる企業活動の場面において、すべての人の基本的人権を尊重しなければなりません。また、人種、信条、性別、年齢、社会的身分、門地、国籍、民族、宗教または障害の有無などの理由による差別や個人の尊厳を傷つける行為を行ないません。」という規定が設けられている。

体制としては、全社には役員から構成された「企業行動委員会」(1997年設立)があり、重要方針を立案・審議・推進する。事務局的機能は、企業行動推進部(1998年設立、2002年4月時点でコーポレート7名、社内カンパニー約20名)が担い、企業倫理の徹底と法律的には主として独占禁止法の分野を担当している。そして企業に関連する他の法律については、法務部、人事部、経理部、総務部、環境推進部、品質推進部など他のコーポレートのスタッフ機関が主管している(そのための企業行動推進部・兼務者も18名いる)。さらに、コーポレート・各カンパニーの事業部単位で「マネージャー」クラスが「推進者」として約300名設置されている。

チェック機能としては、社長直轄の「経営監査本部」がある。同本部には、いわいる「ヘルプライン」として、直通の専用Eメール・電話が設けられており、違反事例などを匿名でも相談・申告できるようにしている。

具体的な取組みとしては、‡@ホームページをはじめとした各種情報発信、‡A他部門との連携も含めたさまざまな研修(行動規範そのものの教育だけでなく公務員倫理法や個人情報保護なども)、‡B相談活動(案件はカンパニーレベルで月に約200件)、‡C企業倫理に関する社員のアンケート調査(2000年よりウェブ上で入社5年おきの社員を対象に無記名で実施。2000年は2900名、01年は3596名、02年は3133名の回答)と調査結果の報告、そして‡D計画(取締役会・企業行動委員会)→実施・運用(企業行動推進部・関係スタッフ)→監査(経営監査本部)→改善(経営トップ・関係スタッフ)といった大きなサイクル、などがある。


B.「行動規範」にいたる歴史的背景

このような一定のレベルに到達するにいたった歴史的背景として、大きく二つのことが指摘できる。

第一には、ステークホールダーズを意識した経営を比較的早くからトップがめざし追求してきたことである。

1972年には「クォリティ作戦」として、‡@マネジメントのQ(クオリティ)の向上、‡A製品・サービスのQの向上、‡B職場環境のQの向上、‡C地域社会との関係のQの向上、‡D人間のビヘイビアのQの向上、‡E業績のQの向上、‡F企業イメージのQの向上、という7つの「Q」の向上が提起されている。さらに1977年にはNECの事業基盤としてC&C(Computers and communications)を提唱した。その後C&Cは「人間的要素」を加えてMan and C&C、90年にはC&C for Human potentialと昇華してきている。

同時に90年には、「企業理念」として「NECはC&Cを通して、世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します。」を、「経営指針」として「良き企業市民として行動する。」「収益性を高め、活力ある発展と社会への還元をはかる。」といった企業の社会的責任を重視した内容のものを発表している。

第二には、実際に生じた企業内の不祥事に対し、「誠意」ある対応をしてきたことである。

具体的には、1988年に公正取引委員会からパソコン販売に再販価格維持の嫌疑で文書警告を受けたことに対し、再発防止のため国内販売事業グループの専任組織として「国内商務部」を設置したことに始まる。94年には「販売行動規範」を作成し国内販売領域における法遵守・公正取引の強化に努めようとした。97年には、さきにも触れた「企業行動憲章」を制定し「企業行動委員会」を設立、98年には国内商務部を発展的に解消、全社スタッフとして「企業行動推進部」を設立していった。

しかし、こうした取組みにもかかわらず、「企業行動推進部」設立直後の98年9月にNEC自身が「防衛庁事件」を引き起こす事態に直面した。これに対し、「緊急企業行動体制」のもと信用回復や再発防止などのプロジェクトが作られ、再発防止の関係ではさきに触れた「行動規範」の策定や社長直轄の「経営監査本部」の発足、いわいる「ヘルプライン」の設置などの具体的な仕組作りがトップの強い決意のもと進められたのである

C.課題

今日の課題としては、第一に、社員一人一人が身近に企業倫理の必要性を理解できるような取組みが求められている。

2001年の「企業倫理アンケート調査」結果でも、「日常業務で企業倫理に照らして適切でないと思うことがあるか?」の問いに対し、「よくある」9%、「たまにある」46%と、55%の人が何らかの不安をいだいており、「自身の倫理意識と実践は十分だ」とした人は52%という状況があり、客観的には身近な課題として企業倫理の問題が存在しているといえる。しかし一方では、「日頃職場で企業倫理が話題になることが少ない」と言う声があり、そのズレをどうしていくかが課題である。

第二に、関係部門へ問い合わせをした時「たらい回しになることが多い」という声もあり、担当者間の緊密な連携と問合わせる方の担当業務への理解、の両方が求められている。

こうした課題に対して、職場内ミーティングを活用したPRをはじめとした旧来の取組みだけでなく、新たな教材である「行動規範」ケースシート「あなたならどうする?」の活用、社長の基調講和を組み入れ、トップとの価値観共有を促進するための社内の「企業倫理に関するシンポジウム」開催など、さまざまな工夫が取組まれている。

第三には、国内関係会社への「行動規範」の適用の課題がある。それぞれの会社の事業領域に合わせた個別の行動規範の作成や遵法教育の支援を行なっている。行動規範作成については、ほぼすべての関係会社が作成できたという。

第四には、海外の関係会社への適用という課題がある。対象が多国にわたるため抽象度の高い行動規範モデルを作成し、地域展開を図っている。適用範囲は当面、NEC100%子会社に限定し、欧米は既に完成しており、それ以外の地域は策定を働きかけている。


3)人権教育の取組み

A.現状

「2000年度人権研修啓発活動計画」として、全体的な取り組みと重点課題がまとめられている。

重点課題としては、‡@社内カンパニー制の導入に伴う研修推進体制の確立,‡A増加が予想される派遣職員に対する人権研修の企画・実施,‡B参加型研修への移行促進のためのツール「インストラクターズ・ガイド」の作成・活用、の3点があげられている。

研修として具体的には、

  1. 各カンパニー推進委員会の委員を対象にしたカンパニー推進委員への研修、
  2. 派遣職員への研修、
  3. 「研修推進員」として社内講師に位置づけらている推進員(マネージャー以上)への研修、
  4. 採用関係者(面接委員)への研修
  5. 階層別研修として、新たに就任した
    • 取締役、執行役員、部門長への研修→人事部が企画実施
    • 事業基幹職(第一線管理職)、主任、班長、一般社員(入社3年目)、新入社員(全員)への研修→各カンパニーが企画実施
  6. 各カンパニーでの活動計画策定への経過措置としての事業場別活動計画

の取り組みがある。

啓発活動としては、

  1. 幹部研修の講演録をもとにした「人権読本」を事業基幹職以上の研修の際に配布
  2. 「人権研修用テキスト」に準拠した「インストラクタ―・ガイド」の作成
  3. 人権啓発リーフレット「ハートリンク」の発行(年4回)
  4. 社内ホームページ「人権啓発情報」(アクセス件数月約2500件)
  5. 電子メールでの問い合わせ

などの取り組みがある。

取組み体制は組織図にあるように、全社的推進組織として人権啓発推進委員会(委員長は取締役常務。1979年に同和問題推進委員会を設置、1997年に現在の名称に変更)がある。事務局は人事部にある。そのもとに4つのカンパニー別推進組織とその実務審議調整組織として人権啓発研修推進員連絡会がある。

B.歴史的経過

こうした本格的な取組みにいたる歴史的経緯には、1978年のある出来事が出発点にある。

即ち、職業安定所から新卒選考に当たり応募者の身元調査を行った事実がないか,との指摘をうけたことである。直ちに社内関係者の点検が行われ、そうした事実はなかったものの,高校生の採用面接に際し応募者に交通費を支払うための交通経路を申告させていた事実があった。

これは,職業安定所の指導によって禁じられていた「応募者の最寄りの駅や居住地に関する質問」と同様のことであり、差別につながるおそれがあるとの判断から,直ちに改善していった。同時に、それまでの職業安定所の研修会に参加するのみといった社内の消極的な部落問題の取り組みを反省し、採用・選考のあり方や部落問題研修のあり方の大幅な見直しが進められた。

体制的にも翌年の1979年には、従来の人事部のみの対応から同和問題推進委員会を設置し全社的な対応に発展させていった。

その後1984年には、東京同和問題企業連絡会(現・東京人権啓発企業連絡会)にも加入し、1995年にはその会長職を担当するにまで至っている。

また、1998年には就業規則を改訂し、「第四条(基本義務その1)」に以下のように互いの人権を尊重することが新たに盛込まれた。

  「従業員は,互いの人権を尊重し,諸法規ならびに本規則その他の諸規定を遵守するとともに、職制によって定められた上司の支持命令に従い,互いに協力して職場の秩序を保持し,自己の職責を誠実に実行しなければならない。」

C.課題

今日の課題としては、第一に、階層別研修を中心にしていることから、職制が高くなるに従い就任する人の割合は少なくなるので、結果として研修を受講しない層が多く存在してくる(図1を参照)という点がある。

第二に、社員、特に新入社員研修の場合が顕著だが、全国各地から採用しているため彼/彼女が受けてきた同和教育の温度差が大きいことである。そして研修内容にかかわって、「なぜ企業が人権研修をするのか」「研修を行うから差別がなくならないのでは」という疑問が多いこともある。従って、部落問題に対する基本的な認識が得られるような研修の組み立てを工夫している。

第三に、社内講師の質的・量的な充実を図っていく必要がある。特に手法的にも、講師が一方的に講義する形から、受講者が自ら人権・同和問題に気づき学ぶような参加型の研修にしていくことが求められている。