調査研究

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企業倫理と人権・部落問題調査報告書
(3)住友電気工業株式会社
1)会社の概要

住友電気工業úXは、1897年開設の「住友伸銅場」として創業し、1900年には、逓信省納入用に硅銅線の製造を開始した。以来、電線・ケーブルの製造とそれに関連する事業を展開していたが、1939年「住友電気工業úX」と改称して光ファイバーケーブル、ゴムイラックスチューブ等の生産にも事業を拡張し、2001年度末時点で、従業員数約9000人、資本金962億円、経常利益単独174億円に達している。


2)企業倫理の取組み

 A.現状

住友電工では、1997年6月、創業100周年の記念として「100周年宣言」、「SEI社員行動指針」が策定された。

「100周年宣言」では、「信用を重んじ確実を旨とし、いやしくも浮利に走り軽進すべからず」や「人間の尊重、技術の重視」という住友の事業精神を基にした経営理念と持続的成長と自己改革を目的にした新世紀に向けての事業ビジョンとして、5項目を以下のように明文化している。

◆経営理念

住友電工は

  • 顧客の要望に応え、最も優れた製品・サービスを提供します
  • 技術を創造し、変革を生み出し、絶えざる成長に努めます
  • 社会的責任を自覚し、よりよい社会、環境づくりに貢献します
  • 高い企業倫理を保持し、常に信頼される会社を目指します
  • 自己実現を可能にする、生き生きとした企業風土を育みます

また、「SEI社員行動指針」では、職業倫理の確立と法の順守や会社との関係等、社員として守るべきことや禁止事項をあげている。そして、「2.職業倫理の確立と法の順守」の中に、「人権の尊重」が明言されている。

◆SEI社員行動指針

 社長からのメッセージ

  1. 社員行動指針制定にあたって
  2. 職業倫理の確立と法の順守
    • 職業倫理の確立
    • 法令及び規程の遵守
    • 人権の尊重

住友電工は、同和問題をはじめとするさまざまな人権問題の解決に向けて、企業の立場から取り組みを行います。そして、国籍・信条・性別・年齢・社会的身分・障害の有無などを理由として、採用選考・賃金・労働条件等を不当に差別せず、社員一人一人の人権を尊重した企業経営を行います。

社員は、人権とプライバシーを尊重し、いかなる差別的行為も許さない、明るい職場環境づくりを心がけて下さい。

3. 会社との関係
4. 会社情報の管理
5. 個別法規への対応
6. 反社会的行為の禁止
7. 贈答接待の対応基準

企業倫理については、研修を人権も含めて人事部が行い、法令遵守については法務部が、法律・社内ルールが業務で守られているかという点検は、監査部がそれぞれに行っており、各部署が連携して取組んでいる。

 B.「SEI社員行動指針」にいたる歴史的背景

住友電工では、これまでにも毎年、年頭のあいさつで、全社員に対して企業倫理、職業倫理の重要性が企業トップより語られていた。特に、管理職へは歴代社長、会長よりメッセージが出されていた。こうした積み重ねの上に、「住友の事業精神の普及」を目的として、100周年を機にまとめていったといえる。

行動指針の作成において、原案をまとめたのは総務部であったが、人権部分については人事部が担当し、管理スタッフ部門において意見を聞き、最終的に役員会で確認された。


3)人権教育の取組み

 A.現状

住友電工の取組みとして、第一に、人事部門が主催で、例年、全社員の約3割にあたる3000人強の職員に対して人権研修を実施している。具体的には、人権教育を社内研修の重点項目として位置づけ、階層別研修においてスタッフ(専門職・管理職)、技術職、一般職のそれぞれに入社時と昇進時の研修に必ず人権研修を実施している。

第二に、人権教育の推進者の育成を目的に、(社)部落解放人権研究所主催の部落解放・人権大学講座(約30日間の研修期間)に毎年、受講生を計画的に派遣し、2001年末で修了者数は94名に達している。

第三に、事業所毎の特色ある人権研修として、各々の事業所で人事部の研修担当者が研修を企画している。これは2001年度末で約3000人近くの参加に達している。具体的には、部門(職場)別研修では、各職場の推進委員が同和研修を年1回は実施することを目標に実施している。あるいは、人権教育講座として部落解放・人権大学講座の修了者が講師になり、主任代理層を対象にした研修や、人権研修推進委員の研修が主任層を対象に実施されている。

またある事業所では、「人権パトロール」として、台帳の表記方法や環境型セクシュアル・ハラスメント等の形としてあらわれているものを対象に、職場環境を人権の視点で点検し、問題がある場合には注意や見直しをしている。

こうした研修以外にも、社員に対して人権標語を募集したり、「憲法週間」「人権週間」には社内報において人権にちなんだ内容を取り上げ、PRしている。

さらには、部落出身者の就職の機会均等の取り組みの一つとして、同和地区出身者の就労機会の拡大と機会均等を目的に設立された(社)同和地区人材雇用開発センターから毎年、可能な範囲で雇用を行っている。同センターは、2002年度よりより広く就職困難層の就職機会の拡大と自立支援を目指して(社)おおさか人材雇用開発人権センターとして改組した。

社内の推進体制としては、全社の「同和問題研修推進委員会」(委員長は人事部長)を設置し、事務局機能としては、人事部において大阪同和問題企業連絡会担当者の所属する部署(現在は人材開発室)が担っている。

また、部落解放同盟や大阪同和問題企業連絡会をはじめとした各地の企業連絡会の取り組みに参加し、部落問題、人権についての最新の情報や課題を社内の研修に取り入れている。

1978年に設立された大阪同和問題企業連絡会には、結成当初より会員となり、1986及び1997・1998年には代表幹事も担うなど、大きな役割を果たしている。

 B.歴史的経過

住友電工は、1970年および1971年に大阪製作所、本社人事部において差別図書「部落地名総鑑」を購入していたことが発覚した。そして、部落解放同盟大阪府連合会の糾弾会を通じて自社の差別体質に気づかされた。

これを機に、人権尊重の社会的責任を果たすことを方針とし、社内研修体制の見直しと充実や部落出身者の雇用促進等、部落問題の解決に向けた取り組みを積極的に進めることとなった。


 C.課題

今後の課題の第一に、量的課題として、人権研修の機会をどのように増やしていくのかがある。経営活動の中に常に人権の視点が取り入れられるよう、役員も含めて、従業員に対する態度変容につなげるには、研修の積み重ねが必要となるからである。

第二に、質的課題として、より人権の尊重された職場にするために、研修内容を検討する必要があると考えている。その際、これまでのような「事業活動に必要なスキル」という視点だけでなく、「生涯教育として、何を学ぶのか」という視点で見直しを図る必要がある。他者から与えられるのではなく、対話や体験から自ら気付き、研修を通じて「どのような会社にしたいのか」という目標に向かって積極的な取り組みを導くものに研修内容を変えていく必要がある。

第三に、住友電工の取組みをグループ企業へも拡大していくことである。

社内分社で新たに職員台帳を作成する際、プライバシーに触れるおそれのある旧来の台帳が流用されていることが社員から指摘された。また、1998年の興信所アイビー、リックの差別身元調査事件では、グループ企業が同社と取引関係があったことが明らかとなった。このことからグループ企業に対しても人権研修の必要性が認識された。現在は、グループ企業の人事部長級の会議で人権について情報の提供を行っているが、その充実が求められている。