米シアトルで99年11月末から12月初旬にかけて、「自由競争」と「自由貿易」の促進に向けた今後の具体的なルールを協議するために開催された世界貿易機関(WTO)の閣僚会議の期間中、非政府組織(NGO)が強い抗議行動を繰り広げるとともに、各国の意見対立のため、新しい多角的貿易交渉の枠組みを決める閣僚宣言が最終的にまとまらずに決裂のうちに閉会した。
マスコミでは、WTOに反対するNGOが暴徒化したといったセンセーショナルな報道がめだったが、それはほんの一部に過ぎず、大半は非暴力の抗議行動を行っていた。集まったNGOの主張は3グループに大別できる。一つが、主に途上国の貧農と先進国の失業青年たちで、「大企業の応援団であるWTOを粉砕する」という主張だ。二つ目が、私自身も属すと思っているが、貿易の多国間ルールの重要性を認識したWTO改革派である。三つ目が、自由貿易の流れを容認した上で、労働条件や環境基準だけは自由化の例外にすべきであり、それらの基準を満たさない国には制裁措置を加えるべきだと考えるグループだ。この中心はアメリカの労働組合で、人権問題を理由に中国のWTO加盟反対を行っている。これは一見正しいようだが、中国の低賃金で製造された製品によって、自分たちの雇用不安が高まるという背景があるのだ。労働者の人権問題では、アメリカも他国のことがいえる立場ではないのにそのような主張をするわけで、自由貿易を支持しながら実は偽装された保護主義に走っているようだ。
一方、各国政府も意見が鋭く対立した。とりわけ調整が困難だったのは、農業分野、貿易と労働をめぐる問題、反ダンピング措置についてであった。
この会議を決裂に導いたのは結局のところ途上国政府であった。WTO加盟135カ国のうち100カ国以上を占める途上国は、これまで実質的な交渉からほとんど排除され、WTOシステムから損害を被ってきたという経緯があり、NGOが途上国政府にその事実を認識させ、途上国の連携を深める役割を担ってきた。そして、この会議に集まった7万人の市民やNGOによる大規模な抗議行動が、途上国の主張を後押ししたのであった。
今後の課題として、多国間貿易ルールの崩壊を防ぐとともに、ルール作りの決定プロセスの透明化と民主化を図ること、WTOを変革していくための市民、途上国政府、国連機関などの国際ネットワークを築いていくことが必要だ。
※WTO:1995年1月、第二次大戦後から続いたGATT(関税貿易一般協定)の後継組織として設立された。初の国際貿易機関として、世界貿易の自由化や制裁を含むルール作りなどを通じて、グローバルな貿易や投資の枠組みを形成しようとしている。
※ 市民フォーラム2001:92年の地球サミットを契機に設立され、環境や開発に関する活動を行っており、とりわけ近年は市民の側からWTO問題をモニターし、広報や提言を続けているNGO。事務局は東京にある。