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国際人権部会・学習会報告
2000年6月30日

予防外交をアジアにも

(報告)吉川 元(神戸大学大学院法学研究科教授)

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 予防外交とは、武力紛争へ発展しかねない対立や紛争を未然に解決することである。この言葉が使われるようになったのはここ10年ほどのことである。

 冷戦終結後、最も積極的に予防外交を進めてきたのはヨーロッパである。ヨーロッパは国際安全保障という協力体制を築き、ロシアや東欧諸国も含め54ヶ国が加盟するOSCE(ヨーロッパ安全保障協力機構)において、ヨーロッパ共通の安全を追求することを合意している。また『包括的安全保障』として、軍事力だけでなく人権問題や民族問題等をも含めて地域の平和・安全への脅威として捉え、それらに包括的に取り組んでいる。

 OSCEは地域の平和・安全に関する問題について詳細な原則を設け、民主主義の実現や人権の尊重、軍の行動の透明性確保や信頼醸成措置を実施している。こうした問題については内政不干渉原則を撤廃し、ヨーロッパ共通の関心事項として監視、実行しているのである。

 一方、アジアには予防外交のシステムはなく、いまだに軍事的な同盟関係によって勢力の均衡をはかる安全保障システムをとっている。ASEAN地域フォーラムは1995年に予防外交に取り組むことを決めたが、内政に干渉されることを嫌う国が多く、現実には進んでいない。特に中国や北朝鮮など透明性を望まない、政治的集中性の高い国は難しいだろう。しかし中国は、軍事力の負担が大きいため、信頼譲成措置によって緊張が緩めば次第に開けてくるだろう。北朝鮮については、南北首脳会談や韓国の『太陽政策』などによっていかに相互依存関係を深めるかが課題となる。

 むしろアジアに共通の安全保障体制を築くのにネックになるのはアメリカではないか。アメリカのような大国にとって、アジアにヨーロッパのような多国間の枠組みや共通の基準ができることは不利になるからである。また、アメリカには日本が日米安保をやめて地域の安全保障を選ぶことへの危惧もある。

 このような状況のもと、日本は予防外交という地域共通の安全保障に向けてどのようなイニシアティブをとっていけるのだろうか。そもそも日本は世界の4分の1という巨額のODAを行っているにもかかわらず、その金は開発独裁政権を維持させてきただけである。人権外交を行うなど、今後は地域の安全保障のためのイニシアティブをとっていくべきである。ODAや在日米軍への思いやり予算に多額の金を出している私たちも、その中身にもっと関心をもつべきである。

(河 昭子)