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国際人権部会・学習会報告
2000年6月30日

『人道に対する罪』に対する普遍的正義

(報告)ケビン・ボイル(英国エセックス大学人権センター所長)

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 国際法を使って重大な人権侵害を行った人物を処罰することができる。例えば、ポルポト政権時代に生じた虐殺や、インドネシア兵士による東ティモールでの人権侵害の数々を裁こうとする動きが現在出てきている。民族紛争のさなかに独裁権力を握っていた旧ユーゴスラビアのミロシェビッチ前大統領が4月1日に職権濫用容疑などで逮捕されたが、オランダのハーグにある旧ユーゴ国際戦犯法廷において、コソボ紛争とボスニア紛争に関して「人道に対する罪」で裁かれる日も遠くないであろう。

 「人道に対する罪」という概念は第2次世界大戦後のニュルンベルグと東京の国際軍事裁判所ではじめて登場した。両裁判では、個人が戦争犯罪者として裁かれた。しかし、それに対して戦勝国が敗戦国を裁いたにすぎないという批判も存在した。従って、国際刑事法は、すべての国・人に対して適用されるべきことを証明していく必要があった。

 その基礎をつくったのは、第2次世界大戦で繰り広げられた残虐行為を非難し、1948年の国連総会で採択された「ジェノサイド条約」である。ジェノサイド(集団殺害)は、人道に対する罪のなかでも最もいまわしい行為として扱われている。そして、もうひとつ基礎となったのが、国際的人道法の中心条約であるジュネーブ4条約の発効であった。

 以後、「人道に対する罪」を処罰するための効果的な進展はそれほどみられなかった。そうしたなか、ラテン・アメリカでの軍事政権、カンボジアのポルポト政権、クルド人に対するイラクの毒ガス使用など重大な人権侵害が発生したが、どの場合も加害者を処罰するという国際的な努力が払われず、不処罰の状態が続いたのである。

 それでも、数々の人権条約の採択や、欧州や米州における地域的人権裁判所のメカニズムが確立されるなどの前進があり、国際刑事法を実施する風土が徐々に形成されてきたのである。

1993年に旧ユーゴ国際刑事法規程が、翌年にはルワンダ国際法廷規程が採択されたことによって、1994年に草案作りが完了した国際刑事裁判所(ICC)の開設に向けてはずみがついた。1998年のローマ会議には、160カ国が参加のもと国際刑事裁判所規程が採択されたのである。世界人権宣言が採択されてちょうど50年後のことであった。

 60カ国の批准を要する同規程は発効までに数年を要する見通しだが、重大かつ系統的な人権侵害に対する刑事責任を追及する常設の国際刑事裁判所が始動する意義は大きい。

このように、人権を促進していくには長い時間を要するのである。人権状況は時間をかけて徐々に進展していくものだというグラデュアリズム(gradualism)を私は説いている。

(注:日本は国際刑事裁判所規程をまだ批准していない)
(藤本伸樹)