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国際人権部会・学習会報告
2001年5月28日

人権侵害の被害者・人権の伸長に取り組む
市民運動の声をダーバンに

(報告)ニマルカ・フェルナンド(反差別国際運動理事長)

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去る5月28日、アジア太平洋地域代表として、「反人種主義・差別撤廃世界会議」の国際運営委員を務める、ニマルカ・フェルナンドさんを報告者に迎えて、「反人種主義・差別撤廃世界会議の意義と課題―アジア・太平洋地域、部落民やダリット、そして複合差別の観点から」をテーマに国際人権部会が開催された。反差別国際運動の理事長であるニマルカさんからは、世界会議にむけたアジア太平洋地域のNGOの動きや、日本の市民が世界会議をどう活用できるのかが話された。紙面の制約から、「世界会議は、NGOにもたらされた、人権伸長にむけた運動を発展させる機会である」というニマルカさんの報告終盤の言葉に焦点をあてて報告したい。

世界会議に関する、残念な側面は複数ある。リオ、コペンハーゲン、ウィーン、北京と続いてきた国連主催の人権に関するこれまでの世界会議に比べて、メディアでの取り上げられ方が不十分なこと。各国政府代表は、自国に都合の悪い問題が世界会議の焦点にならないように、かけひきをしていることなど。

それらをふまえた上で、ニマルカさんは、人権の伸長に取り組むNGOの中に生まれている、注目すべき新しい動きを紹介された。例えば、カーストに基づく差別は、人種主義であるとして、アジア・太平洋地域のNGOが中心となって、カースト差別の撤廃を求める運動の波を、世界会議にもたらそうとしている。

また、ロビーイングなどで経験の深い、西側先進諸国のNGOに混じって、ブラックアフリカンや移住労働者などの新しい、運動の担い手が国際舞台に登場しているのだそうだ。

ブラックアフリカンや移住労働者にしてみれば、白人の活動家には、例えば政治的・市民的権利の重要性や人権の普遍性は語れても、人種主義や人種差別という議題に関して、ブラックアフリカンや移住労働者の声は代弁できないという考えが強いようだ。

このような動きをニマルカさんは、新しい運動、新しいリーダーシップの台頭と表現された。4月にカトマンドゥで開かれた、アジア・太平洋地域NGOネットワーク会議も例外ではない。二マルカさんによれば、インド、パプアニューギニアの先住民や、ビルマ、チベット難民といった、人権侵害の被害者が、活動家として、このネットワーク会議に多数参加していたそうだ。その背景には、十分ではないにしても、国連がこのような地域会議に必要な費用の一部を負担している事実がある。国連人権高等弁務官は、早くから、世界会議へのNGOの参加の必要性を説いている。

新しい運動、新しいリーダーシップの台頭によって、長所ばかりがもたらされるのではない。技術に長けたロビーイングをするだけの力量を備えていなかったり、古くから活動しているNGOとの間に軋轢を生んだりもする。ニマルカさんは、「ブレンド」という言葉を使われた。国際舞台で豊富な活動経験をもつNGOと、自分の言葉で、自分たちがうけている人権侵害を訴えようとする、新しく力をつけてきたNGOの双方が、人権の伸長にむけた世界のNGOの運動に不可欠だとの思いからである。経験がないからと、経験のあるNGOにまかせっきりにしていては、いつまでも活動家は育たない。政府代表者が中心的アクターとなる本会議で採択される宣言と行動計画は妥協の産物になるだろうと予測する二マルカさんが、それでも意欲的にみえたのは、世界会議はその前後にNGOが活動を重ねながら力をつける機会を提供し、NGOもその機会を逸していない、とみているからではないだろうか。試行錯誤を繰り返しながら奮闘する新しいリーダーを育てようとしているニマルカさんの一面をみた。 (小西裕美子)