対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)に署名した国の数が全世界の3分の2を超え、国際社会が地雷廃絶に向かって動いている中で、ビルマでは依然として地雷が製造され、また使用されている。ノンバイオレンス・インターナショナル事務所長のヨシュア・モーゼさんが、ビルマで誰が、どのような目的で地雷を使用し、どうすれば地雷の使用を禁止できるのかについて報告した。
ヨシュアさんによれば、ビルマで30以上にのぼる全武装勢力が地雷を使用しているが、多数民族であるビルマ族の居住地には地雷が埋設されていない。地雷の被害者は増加しており、構成をみると、6割が兵士で、女性より男性の被害者が圧倒的に多い。さらに詳しく分析すると、被害者の7%は16歳以下で、軍事活動従事中に被害を受けているという。10年以上にわたって軍事政権下におかれているビルマ国内で、武力行使が常態化してきたことがうかがえる。
また、ビルマでは商業目的での地雷使用も報告され始めているとのことだ。割り当て地以外の木材を伐採する集団から自らの木材伐採地を守るために、伐採地近くを地雷で囲ったグループがあったそうだ。紛争が長く続くと、問題の解決を軍事的方法に頼る傾向がみられ、紛争終結後も地雷の使用が減少しない例のあることを、ヨシュアさんが指摘した。
地雷禁止に向けた戦略について、ヨシュアさんは2つのポイントをあげた。地雷禁止は信頼構築の第一歩という捉え方であり、地雷禁止には紛争当時者全員を参加させるという法則である。“相手がやめたら自らも使用をやめる”という考えに立つ限り地雷の禁止は望めないことを意味する。
続いて、ビルマに国境を接するタイの町でビルマ難民のためのクリニックを運営するシンシア・マウン医師が、ビルマ国内の少数民族や国内避難民、また難民として近隣諸国に流出したビルマの人々が必要とする医療ケアと彼女の活動について報告した。民主化運動への弾圧を逃れて国外に避難したシンシア医師が少数の仲間と立ち上げたクリニックは、10年を経た現在、入院病棟を備えて産婦人科、小児科、眼科、外科の診療を行うほか、義肢装具センターを併設しリハビリ医療も行っている。マラリア、子どもの栄養失調、呼吸器系の病気が多いという。診療費は無料だ。
シンシア医師は、クリニックでの診察のみならず、孤児院の運営をしたり、十分な医療にアクセスできない国内避難民等に、医療物資や健康に関する情報を提供することを目的とした巡回医療チーム(バックパックヘルスワーカーチーム)を編成し、ビルマ山中の村を回ることもしている。
会場からは、ビルマと国境を接するタイ以外の国にも、メータオ・クリニックのように、ビルマの人による、ビルマ難民のためのクリニックがあるのか、また国外に逃れた医師同士、例えばタイに流出した医師と、ラオスに流出した医師がネットワークを築いて協力関係にあるのかという質問や、なぜタイは難民条約を批准していないのかという質問が出された。両質問は、間接的また直接的に、避難先によって難民が享受できるケアに違いのあることに触れていて、興味深いと思った。特に後者の質問によって、難民と一言で言った場合、厳密には2つのカテゴリーに分けられる人々を一緒に扱っていることが再確認された。
タイで避難生活を送るビルマ人は、難民条約が規定する「難民」ではないし、彼らに難民条約で定められた権利を保障する義務はタイ政府に発生しない。しかし、彼らは世間一般に難民とよばれ、タイ政府も一定の保護を与えている。難民が大量に発生するのは大抵、南の国においてであり、近隣諸国に脱出するのが精一杯の人々に一定の保護を与え、一時的にせよ受け入れざるを得ないのは、難民条約が締約国に課している義務を守るための経済的裏づけをもたない国である場合が多いという構造が、ビルマ難民の地位を通して見えたと感じた。