今回の部会はヒューライツ大阪との共催で開催され、タイ国家人権委員会のスティン・ノーパケッ委員と龍谷大学の金東勲教授から、報告をいただいた。両国の国家人権委員会の設立と運営にあたり、NGOなど「市民社会」の諸アクターによる活発な参加と関与がある、という点は大変印象的であった。
タイと韓国において、独立性の高い人権委員会が設置された背景には、NGOからの積極的な働きかけがある。タイでは、92年の「5月事件」の悲劇がきっかけとなり、NGO、学者、学生などによる市民のネットワークが「97年憲法」の起草段階から提言をおこなった。タイ史上前例なく人権尊重を重視した同憲法には、人権委員会に関する規定も明記された。
韓国では、金大中大統領が就任時に委員会の設置を公約の1つとして掲げたが、その後の政府案は、独立性の観点からNGOなどの反対を受け、99年に一度廃案にされた。
両国に共通しているのは、政治的危機や公権力による人権侵害の経験から、市民による関心が高まり、「運動」もさかんになったことである。
委員会開発足後も、NGOは委員会の独立性を維持するための監視活動や必要な情報提供などに協力している。さらに、両国の人権委員会は、現時点では地方事務所を設けていないが、地方で活動するさい、NGOの全国的なネットワークを利用することができる。NGOのほか、地方の弁護士会などの専門家団体との連携も進んでいるという。
このように、NGOを中心とした人々のネットワークは、タイと韓国の人権委員会において欠かせない要素であり、両国の人権委員には、NGO活動の経験者も多い。しかし、委員会は、NGOからも独立し、中立な立場から課題に取り組まなければならない。
日本においては、現時点では残念ながらタイと韓国ほどNGOや市民からの活発な参加はみられず、NGOの全国的ネットワークも発達していない。また、国民全体に影響を及ぼすような大きな政治的危機や人権侵害を幸いにも経験していないことから、自由や民主主義への国民の関心は、タイや韓国の国民より低いように思われる。両講師より独立した人権委員会を創設する必要性が指摘され、それを実現するには、専門家だけでなく私たち一般市民の自発的な活動と共通の目標へ向けた連携が必要であると改めて感じさせられた。