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国際人権部会・学習会報告
1998年11月13日
21世紀におけるアジアの人権

ヤシュ・ガイ(香港大学教授)

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 1948年に世界人権宣言が採択されて以来、国際人権規約を始めとする人権条約が数多く生まれ、国際社会で人権の概念が理論化されると共に、人権の重要性が認知されてきた。98年の世界人権宣言50周年に際して、さらにそれらの成果を発展させる必要があるのだが、すべての人々がその動きを歓迎しているわけではない。世界人権宣言などの内容を修正すべきだという意見が一部に存在する。

 その1つが、シンガポールやマレーシア、インドネシアなどのアジア諸国のリーダーたちが主張する、アジア的価値を反映させるべきだというもの。もう一つが、コミュニティの重要性を尊重しようとする欧米のコミュニタリアン(共同体主義者)の考え方である。この2つの潮流の背景は異なるが、共通点は個人の権利を強調するあまり、家族や共同体の責任が弱められてしまっているという認識である。


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 そこには権利と責任の概念の対立がある。しかし、私はそれらを二律背反的に強調すべきでないと考える。人権の概念を責任の観点から解釈することも可能であるからだ。例えば、環境を保護する目的のために、生命に対する権利を尊重する一方で、そのために責任が生じるといった具合にである。

 いま、アジアの人権にとって否定的な要素を語るとすれば、まず前述のようにアジアのいくつかの国家においてみられるイデオロギー的な挑戦が台頭してきたことだ。第2は、より国民生活に関連しているものだが、経済のグローバル化がもたらしている負の影響である。

 とはいえ、南アジアでは深刻な児童労働や民族紛争の問題が、東アジアではそれほどではないことなど、アジアの人権状況を一般化して語ることはできない。その一方、国境を越えたNGOのネットワークは進んでおり、人々の人権確立の声も高まっている。それを受け、いくつかのアジアの国では、オンブズマンや人権委員会など人権保護のシステムが整備されてきているが、アジア地域をカバーする人権機関はまだ存在しない。しかし、NGOレベルでは地域的な人権基準を確立するために「アジア人権憲章」などの草稿が試みられたりしている。

 だが、人々によるそうしたイニシアチブは、概して課題ごとに細分化されており、国際人権の領域でもロビー活動が課題ごとに行われるなど、政治を動かすほど強力ではない。

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 一方、国際的な経済競争の激化と平行して、貿易の規制が徐々に撤廃され、商品や資本の自由な移動に代表される経済分野でのグローバル化が進行している。資本が安くて優秀な労働力を求めて世界を移動するにつれ、その受入国では最低賃金法が撤廃され労働者の権利が後退するという事態が出現している。そのうえ、国際競争で生き残るために国内の富の再分配、つまり社会福祉の予算がカットされたりしている。

 そうした状況で優先されるのは、労働者や女性、マイノリティの権利ではなく、市場に好都合な特許や知的所有権などの権利なのである。

 それに対して、私たちは、市場優先の権利ではなく社会的権利を保障していく方向をめざすと共に、国際人権条約の概念をあらためて再概念化(普遍化)していくことが求められている。また、経済分野における国際的な一体化だけではなく、社会的な領域での国際協力を進め、これからの時代に向けた人権伸長の制度を構築していかなければならない。

(※事務局注:「グローバル化のなかでの人権」に関しては、97年11月14日に行われた第179回国際人権規約連続学習会のヤシュ・ガイ教授による講演録を掲載した97年12月10日発行の『世界人権宣言大阪連絡会議のニュース』第184号を参照して下さい。)