調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動国際人権部会 > 学習会報告
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権部会・学習会報告
1999年2月11日
アジアの学校における人権教育の現状と課題

(報告)ジェファーソン・プランティリア (ヒューライツ大阪研究員)

-----------------------------------------------------------------------------

 ヒューライツ大阪は、「アジアの学校における人権教育」に焦点をあてて、98年度東南アジア(インドネシア)、東北アジア(韓国)、南アジア(インド)でワークショップを開催し、同年11月には大阪でアジア地域全体のまとめのワークショップを開催した。一連のワークショップを通じて得た現況の概要を報告する。

 アジア30数カ国のうち、学校で比較的中身のある人権教育を実施しているのは15カ国弱で、実際に力を入れているのは日本、スリランカ、フィリピン、インド、インドネシアの5カ国にすぎない。

 日本の場合、部落解放運動や教員の運動などの社会運動が推進力となり早くから同和教育・人権教育が始まったという経緯があるが、それ以外の国での人権教育の歴史はまだ新しい。スリランカでは、83年以降、スリランカ財団が教師、警察、政府職員への研修を展開している。

フィリピンでは、87年制定の憲法がすべての教育機関で人権教育を行うことを定めており、実際にNGO、教育省、人権委員会が具体化させている。インドでも人権委員会やNGOが推進している。インドネシアで人権教育が開始されたのはカナダ人権財団、同委員会による強い働きかけによるもので、警察、軍人、教師に対するワークショップが行われている。

 このように、いずれの国においても憲法、法律、政策などの法的根拠、NGO、国内人権機関、教育研究機関、あるいは国際的支援などの活動による推進力があったからこそ人権教育が実現してきたのである。

 これらの国での人権教育のアプローチの特徴としては、参加型を採用する方法論については異論が出なかったこと(※注)、知識の習得よりもその後の行動に重点を置くという考え方から試験での評価付けを行わない、などが共通認識である。人権教育を既存の教科に盛り込むか、あるいは独立した科目にするかは意見の分かれるところであった。

 具体化していく上での課題は、人権を語る前に義務を論じる人々がいることをはじめ、人権あるいは人権教育とは何かをめぐっていつも誤解が生じている。また、教材、資金、研修、政治的意志の不足や欠如など多くの難点が存在していることだ。


---------------------------------------------------------------------------

 今後の提案としては、これまで人権は否定的なイメージでみられがちだったことから、人権教育を希望に満ちた楽しい経験として展望すること。また学習内容は個人の経験から出発し、権利か責任かという議論を深めたり、スキルを高めること、肯定的な話をしていくこと、心の傷を癒していくこと、などである。また、教員自身の人権問題や学校環境の問題を取りあげられながら教員研修を積極的に行っていくことが強く求められている。

 そのことから、ヒューライツ大阪では、学校における人権教育の基礎研究、地域の実情に即した教材開発、教員トレーニングを柱とする「人権のための人材育成プロジェクト」を次のステップとして進めていきたい。

(※事務局注)部会の参加者から、日本において参加型学習は単なるゲームで終わっているといった批判的意見も出ていることから、この方法論をめぐる議論を深める必要がある、という意見が出た。

(藤本伸樹)