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国際人権部会・学習会報告
1999年8月5日
子どもの権利条約と被差別部落の子どもたち

(報告)平野裕二(子どもの人権保障をすすめる各界連絡会議・国際小委員会主査、ARC代表)
中島智子

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 仕事の都合で来日できなくなった国連子どもの権利委員会のマリリア・サーデンバーグ委員のメッセージが代読された後、平野裕二さんと中島智子さんによる報告が行われた。

 平野さんは、昨年5月に子どもの権利委員会が子どもの権利条約の実施に関する第1回日本政府報告書審査を経て採択した総括所見に関する報告を行った。

 審査では条約第2条「差別禁止の原則」に照らし差別の問題に焦点が当てられ、かなりの改善が必要という見解が総括所見に記された。所見に法的拘束力はないが、委員会のメンバーが締約国の推薦、選挙によって選任された専門家であること、また条約が委員会に各締約国の条約の実施状況を監視する任務を与えていることから、締約国はその見解を軽く受けとめるべきではない。

 子どもの権利条約には、第2条「差別の禁止の原則」をはじめ、第3条「子どもの最善の利益の原則」、第6条「生命・生存・発達への権利の原則」、第12条「子どもの意見の尊重」の4つの一般原則がある。これら一般原則は、条約のすべての規定の実施にあたって、また財源の制約に関わりなく適用されなければならない。

また第2条の差別の禁止は、「あらゆる差別なく権利を確保する」との文言から私人間差別、地域的な格差の問題にも適用される。委員会は差別を解消するための積極的措置の必要性を強調している。

 委員会の総括所見より、日本における差別の解消のために特に必要とされる措置として(1)効果的な救済メカニズムの確立、(2)人権教育の推進、(3)NGOとの対話・協力があげられる。(1)について所見は、法務省の「子どもの人権専門委員」制度を改善・拡大するか子どもの権利のためのオンブズパーソン等を創設するかによって子どもの権利の実施を監視する独立機関を設置することを勧告している。

 (2)については、子どもの権利条約の広報・普及と人権教育という2点から触れている。前者に関しては、特に子どもが権利の主体であり社会的に特別な役割を担う集団であるという条約の子ども観が反映されるような研修・広報を行うことが強調された。人権教育に関しては、学校カリキュラムへの体系的な導入を図るために適切な措置を取るよう勧告がなされている。(3)については政府に対し、条約の実施とその監視にあたってNGOと緊密に交流、協力することを奨励している。

 日本政府は2001年5月までに第2回締約国報告書を委員会に提出しなければならない。その審査は今回採択された総括所見を基礎として行われるだろう。NGOは、日本政府報告書の作成過程に参加してその中身を充実させた上で不十分な点をNGOレポートとして委員会に提出することによって、第2回報告書審査をより効果的なものにすることが求められる。そのために委員会で採択された総括所見の中身を周知させるためにも、今後NGOからのより積極的な議論が必要になってくると思っている。

 続いて中島さんは、部落差別と部落の子どもの学力の実態についての説明の後、大阪における解放教育の取り組み、中学・高校生の自主的な活動を紹介した。また、子どもの権利条約を活用した学校や行政の取り組みを紹介したが、それらはまだ一部にとどまっているとして今後の課題を指摘した。

(河 昭子)