「私たちをはずかしめるように、社会はなぜだまし続けるのか」
アジアボランティアセンターが企画したスピーキングツアーの一環として、ヒューライツ大阪と当研究所が開催した国際人権部会に集まったおよそ30人の聴衆を前に、報告者の1人パビットラさんが披露してくれた自作の歌はそんな歌詞で始まった。
パビットラさん、カマラさんは共に、ネパールで唯一のダリット女性のための組織、フェミニスト・ダリット協会(FEDO)に所属しているが、組織の全体を統括するような幹部とは違い、FEDOで研修を受けた後、いくつかの村に基盤をおいて住民に一番近いところで活動を行っている人たちであり、今回はその働きが認められて仲間の代表として派遣されたそうだ。
彼女たちの話には、自分の家族のこと、学校・商店・飲食店などにおいて、ダリットであるがゆえに差別的な取り扱いを受けた経験、身の回りでおきている具体的な事件、活動の展望などが含まれており、そこからは社会の不正義に目覚め、変革に立ち上がった1人のダリット女性の成長の軌跡がうかがわれた。同時に、彼女たちのエンパワーメントを促進し、彼女たちからまた別の女性たちへのエンパワーメントを広げているFEDOの活動の底深さが感じられた。パビットラさん自身、FEDOと出会う前はダリットの問題が何なのか、どうしたら解決できるのか知らなかったと語っている。
彼女たちが意識している今後の活動の課題や戦略は明確であった。それは、自分が活動している村に現れる問題の原因や、自分にできる活動のスタイルを彼女たちが理解しているためだろう。ダリット女性が妊娠したことがわかった途端に去っていく高位カーストの男性が多いことを話したカマラさんの今後の活動目標には、ダリット女性の健康教育が含まれていた。教育熱心な叔父の援助もあり村ではじめて高校卒業資格試験に合格した女性で、また歌が得意なパビットラさんは、投稿や歌による啓発をしていきたいと抱負を語った。
後半、会場からでた質問に対して、報告者の2人とネパールからの留学生の女性1人がネパール語で話しこむ場面があった。非ダリット男性とダリット女性間の婚姻は、両方の社会から非難されるのに対して、ダリット男性と非ダリット女性間の婚姻の場合、ダリット社会からは受け入れられるのはなぜかと問われ、「なぜだろう、不可触制のためなのか、ジェンダーが関係しているのか」と意見を交わしながら答えを見つけ出そうとしていたが、まとまった答えを出せるまでには至っていないと通訳から説明があった。
「社会はなぜだまし続けるのか」、その問いと共に歩んできた彼女たちに、新たな問いが加わった。その問いは、決して彼女たちだけのものではなく、答えをみつける作業も彼女たちだけのものではないだろう。これまで見過ごしてきた問題に疑問をもつこと。ネパールの草の根の活動家たちと日本の私たちの交流の最大の成果がそこにあると思う。