国内人権機関の設置について、フィリピンの経験を参照しながら考えていきたい。この点に関して、いずれの国もその国に適した機関を設置すべきだが、特に国内人権機関の地位に関して詳細に規定しているパリ原則に合致したものであるべきである。パリ原則の主要な基準としては、(1)独立性の保障、(2)広範な権限及び実効性があること、及び(3)国際人権諸条約の国内的実施の監視などがあげられる。以下、特に(1)から(3)についてそれぞれ検討し、最後に国内人権機関の形態について述べていきたい。
まず、(1)については、国内人権機関の問題の中でも最も主要な問題である。この点、国内人権機関が自らの権限を発揮していくためには、強固な基盤と資源が必要であり、独自の資源を持ち、意見を述べることができなければならない。フィリピン人権委員会(以下、委員会)では、委員の選任は、社会の様々なセクターの様々なグループの中から推薦された人物から大統領が任命する。委員の人数は5名(うち1名は委員長)であり、任期は7年である。再任はない。委員は、弾劾によって相当の理由があると認められない限り、解任されることはない。また、委員会の職員は委員が選任し、常勤である。さらに、委員会は財政上も独立しており、委員会が議会に申請する予算だけでなく、独自に資金を調達することも可能である。
次に、(2)についてである。この点、委員会の主な権限として、(a)調査権、(b)侵害の存否を宣言、(c)司法省、検察、あるいはオンブズマンにレポートを提出、及び(d)拘禁施設の訪問、がある。(a)については、委員会は市民的・政治的権利の侵害について調査する。また、申立がなくとも、独自の判断で調査を行うこともできる。(b)と(c)については、委員会の調査により人権の侵害の認定を行い、その存在が認定された場合には司法省などにレポートを提出する。これは、委員会には訴追権限がないため、司法省と協力して問題の解決を図るとともに、司法省に対して適正に救済することを要請するものである。(d)については、拘禁施設において非人道的な取扱いや拷問が行われないように監視する上で、きわめて重要な権限であると言える。
(3)については、委員会は、国際的な人権条約上の政府の義務の履行を監視し、人権侵害に当たると考えられる点について助言を行っている。また、フィリピン人の多くが国外にいるが、これら移住労働者の権利の保障を行うことも委員会の任務である。この点に関して、日本に国内人権機関ができれば、相互協力により、このような問題をより実効的に解決できるのではないだろうか。
最後に、国内人権機関の形態についてである。フィリピンでは、人権に関わるすべての事柄について調整する機関を中央に1つ設け、その下に15の地方事務所を設置している。これは、具体的な人権侵害のケースの対応を地方事務所で行い、それが無理な場合には中央で行うという方法を採用しているためである。日本の場合には、各地方・地域における人権侵害事案を中央が集約するという形式を取ることが考えられるのではないだろうか。
(徳永 恵美香)