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2005.02.14
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権部会・学習会報告
2004年12月23日
職業と世系に基づく差別
-国際社会における現状と今後の課題

田中 敦子(反差別国際運道国連代表)

現在、国際連合の人権関連機関において、「職業と世系に基づく差別」が議論の俎上に上がっている。本報告では、この課題について各方面に働きかけてきた経験に照らして、その議論の現状と、今後の展望が示された。

1.国連人権小委員会での進展

2000年の夏、国連人権小委員会は、「職業と世系に基づく差別」について、研究を開始する決議を行なった。国際社会においては、かかる課題がダーバンで開催された反人種主義・差別撤廃世界会議で取り上げられ、にわかに注目を集めるようになった。しかし、このような名称は、あまり馴染みがないであろう。当初は、部落差別や南アジアのダリット差別を取り上げるために、「カースト」という用語を用いていたところ、インド出身委員が難色を示したため、かかる用語に切り替えたという経緯がある。

これまで、この問題については、2001年、2003年、2004年と、計3回作業文書が小委員会に提出されている。第1はアジアを中心とし、第2はそれ以外の地域、特にアフリカでの実態を示した上で、2004年の作業文書では、かかる差別の撤廃のためにとるべき取り組みについて、「原則と指針」素案がまとめられた。この文書は、国際法的には法的拘束力がない。しかし、そうであるがゆえに、政府のみならず、私人間や企業内での取り組みにも適用可能だという利点がある。

そうであるにしても、内容的には、各人権条約機関の文書を基礎として作成しているため、必ずしも各国政府の意見を反映し、賛同を得ているとはいえない。そこで、今後は、政府を巻き込み、いっそう研究を進める必要がある。

本年の小委員会会合での課題としては、(1)この問題について研究を継続することができるか否か、(2)誰がそれをになうか、そして(3)委員による作業文書から、特別報告者による研究報告へと格上げができるか否か、が挙げられていた。(2)については、これまで作業文書の作成を担当していた横田洋三委員に加えて、新任の鄭鎮星(チョン・ヂンソン)委員が快諾した。(1)については、インド出身委員が議長であったことも幸いしてか、各委員は基本的に好意的に発言した。ただし、キューバ出身委員とハンガリー出身委員は若干微妙な反応を示した。NGOとしては、決議採択の直前まで働きかけをおこない、可能な限り無投票採択を追求した。その結果、特別報告者任命については留保するとコメントしたものの、継続自体には反対しないとし、無投票で採択された。これに伴い、小委員会段階では特別報告者任命についてもクリアした。

次の課題は、本当に任命させること、すなわち人権委員会に承認させること、そして実際に原則と指針についてしっかりした内容をまとめることである。内容に関しては、特にアフリカ等事態が深刻な地域出身の当事者が、直接国連で訴えることが困難であるから、国際NGOがしっかりと当事者の声をくみ上げ、人権委員会や策定プロセスで訴えることが必要である。

2.国連人権委員会の動き

上記のように小委員会での決議により、特別報告者任命について、人権委員会に決定案がすでに提出されている。これを今春の会合で採択させることが直面する最大の課題である。小委員会提案については、必ずしも委員会構成国がスポンサーになる必要はないが、その場合、各国政府による差し替えが行なわれるおそれがある。そのため、現在のロビー活動としては、各国政府に対し、(1)差し替え案を提出しないこと、(2)もし差し替え案が出された場合これに反対すること、(3)原案をサポートすること、を求めている。現在の感触では、欧州の多くの国家が支持している。しかし、EUグループ全体にまでは広がっていない。日本の態度については、これまで基本的に自国出身委員の活動に反対することはまずなかった。しかし、今回はその予断を許さない状況といえよう。

今後の長期的な戦略としては、まずは各国連機関での会合において、より多くの国家によって取り上げられるよう働きかけること、人権委員会の他の決議で言及するよう求めること、さらに人種主義に関する特別報告者(ドゥドゥ・ディエン氏)に取り上げてもらうこと、その一環として、ディエン氏の公式訪問・現地調査を実現すること、さらには、人権委員会所管の特別報告者の任命を追求すること、である。

3.当事者参加の重要性

これまで手続き的な状況を紹介したが、この過程において、真に必要とする当事者やその支援者が現場において活用しうるように、当事者を巻き込み、適切にそのニーズを反映させることがきわめて重要である。

(李 嘉永)