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2005.06.17
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権部会・学習会報告
2005年02月24日
韓国における移住労働者関連法制と人権問題

金 東勲(龍谷大学名誉教授)

  現在、韓国においては、多くの外国人労働者を受け入れているが、その就労実態や権利保障は、極めて貧弱であった。そこで、2003年2月10日に国家人権委員会が国会・国務総理に「雇用許可法」の制定を勧告し、その制定が実現した結果、その状況がどのように変化したか、金東勲先生より報告をうけた。

1.はじめに −移住労働者の実態

 韓国における外国人の在留状況については、従前より華僑の人びとの処遇をめぐって、多くの問題を抱えていた。他方で、その後移住労働者受け入れが行われ、韓国においては大きく分けて次のような人びとが韓国国内に入国し、就業している。すなわち、研修制度に基づいて就業している労働者(研修生)、国外在住の韓国系住民(海外同胞)、女性移住労働者、そして未登録者である。

 研修制度に基づくものには2種類あり、「海外投資企業推薦研修生」と、「産業技術研修生」である。この制度に基づいて、17カ国より、ピーク時は7万人を受け入れていたが、その実態は、低賃金労働として悪用されるケースが多発した。斡旋業者に斡旋料の支払を求められるが、低賃金のために返済できず、未登録状態に陥る者も後を絶たなかった。海外同胞については、1948以前に国外にいるものについても適用対象として受け入れいているが、偽装結婚の後離婚し、問題となるケースも少なくない。女性移住労働者については、いわゆるエンターテイナーとして入国し、性産業の犠牲となる者が多く見受けられる。それらの劣悪な就業状況の結果、未登録状態に陥り、法の保護を受けることなくさらに劣悪な状況に追いやられる場合が往々にしてある。

2.移住労働者の地位と人権

  このような状況にある移住労働者は、どのような法的地位に置かれているのであろうか。まず研修労働者の人権に関して言えば、上述したように、移住過程に負担を強いらる。特に、労働条件について虚偽の内容を提示され、その見返りに高額の斡旋料を求められる場合が少なくない。また、労働条件も極めて差別的であって、賃金は最低賃金の3分の1程度と設定される半面、実質的な労働時間は1.5倍である。遅払い、未払いは51%に達し、自殺する労働者も少なくない。

  労働基本権としての争議権、交渉権も認められておらず、労災保険・健康保険の加入率も極めて低い。労働権のみならず、労働現場においては猛烈な人種差別的待遇を受けており、また女性労働者の実態においては、暴力や性的搾取が横行している。さらに、未登録者の取締や退去強制手続きにおいては、極めて非合理的な入管行政の実態がある。このような状況に対して、2003年2月10日に、韓国国家人権委員会は、国会および国務総理に対して、雇用許可法の制定を勧告した。それに応じて、国会は、2003年7月に、「外国人勤労者雇用許可法」を制定した。

3.外国人勤労者雇用許可法の制定と意義

 この雇用許可法の意義は、一定の外国人労働者に対して労働権を保障し、かつ送出し国との連携を強めることで、悪質なブローカーの介在を排することにある。総則部分では、外国人労働力を体系的に導入し、かつ適切な管理を行うことによって、国民福祉の増大を図るとしている。具体的な雇用手続きに関しては第2章で規定され、送出し国の労働関係省庁と韓国労働部が連携し、求職者名簿の作成や韓国語能力試験の実施、さらに職安機関の許可を経て、単年度雇用契約(3年まで更新可能)を締結することができるとする。

 さらに、雇用管理に関する第3章では、退職金に代わるものとして出国満期保険への雇用主の加入を規定し、さらに健康保険を強制加入とする。さらに、帰国費用保険についても、労働者に加入を勧奨している。労働者の保護としては、差別禁止原則を規定し、労災・失業保険の加入、職場の休業・廃業に伴う職場変更申請手続きを設けるなど、大幅に労働条件の改善が見られる。さらに、法制の実施に伴う経過措置として、未登録者を当該法制に基づく労働者とする合法化(アムネスティ)の取り組みが行われ、一時期30万人にも上った未登録者が現在10万人を切るまでにいたっている。ただし、この制度に問題がないわけではなく、単年度契約を基本とすることから、保障されている権利を行使しようとすれば、再契約の際に不利になる場合がありうる。

4.雇用許可の実施状況と課題

  この制度の運用にあたっては、送出し国との連携協定を締結する必要があるが、現在、フィリピンやベトナム、タイ、カザフスタンなどと既に締結している。しかし、中国とは未締結である。この締結は急がなければならない。中国籍朝鮮族の法的地位は依然として研修・海外同胞となっていることからも、なおさらである。さらに、移住労働者の家族や子どもの処遇については、依然として解決しておらず、今後の課題であるといえよう。

(文責:李 嘉永)