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2005.08.15
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権部会・学習会報告
2005年05月25日
スィンティ・ロマの現状と課題

ジャック・デルフェルド(ドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会副委員長)

はじめに

 スィンティ・ロマ中央委員会は、ドイツに在住するスィンティ・ロマの人々(約7−8万人)を代表している。スィンティ・ロマの人々は、かねてから「音楽者」や「占い師」、そして「犯罪者」といった偏見を受け、差別をされてきた。これに加えて、昨今のナショナリズムの台頭により、差別発言や暴行・傷害、殺人事件も発生するようになっている。特に犯罪が発生すると、「スィンティがやったに違いない」という声もあがるほどである。

 このような状況に対して、スィンティ・ロマ中央委員会は、さまざまな取り組みを通じて、差別の撤廃を目指している。とりわけ、マイノリティの保護に関する欧州審議会の枠組み条約やEUの差別撤廃法制など、さまざまな仕組みの創設を実現してきた。しかしこれらの仕組みもいまだ実効的にはなっていない。本報告では、スィンティ・ロマに対する差別と、その撤廃に向けた取り組みについて具体的に紹介したい。

1.犯罪捜査・報道における差別

 これまで警察は、犯罪捜査においてスィンティ・ロマに対する特別な調査を実施してきた。上記のような偏見に基づき、スィンティ・ロマの人々の名簿に特殊な印を付けて、マークしてきた。ただしこのような方法が運動側の知るところとなり、別途の方法を用いているようである。

 また、容疑者がスィンティ・ロマの出身者である場合、メディアは意図的に「犯罪者はスィンティだ」と報道し、偏見を助長している。この事態に対し、中央委員会はテレビ放送の内容を検討する委員会を報道機関とともに組織した。これを受けて、差別を批判する報道が行われるようになった。

2.スィンティ・ロマ記念館

 スィンティ・ロマの虐殺に関する記念館は、ユダヤ人のそれに比べて極めて狭隘であるけれども、何とか建設の資金を集め、多くの人々の賛同も得ることが出来た。立地については国会の正面に位置しており、大変いい。しかしながらその建設に当たって、大きな論争に見舞われた。と言うのも、ヘルツォーク大統領(当時)が「スィンティ・ロマは外国人」と発言し、また他の政治家が記念碑の文言に古くからの差別的呼称である「ツィゴナー」と記載するよう述べ、論争が巻きおこった。

3.メディアと若者たち

 ドイツでは、スィンティ・ロマを題材にしたドラマが作成され、これが起因して、スィンティ・ロマ差別への関心が高まった。ただし、差別が一層厳しくなるのではないかという懸念を指摘するものもいる。ただ、若者たち、特にスィンティ・ロマの若者たちがその問題に目を向けるようになった。自作映画を製作し、放送してもらうよう働きかける若者も現れるようになった。

 さらに、スィンティ・ロマのための高校が設立され、州政府は運動体と契約を締結し、少数者として承認し、教育等について支援することを約束した。この点は大きな成果である。他方で、警察や財界、さらに不動産所有者の間では、ねたみ差別やバックラッシュが起こっている。この点は、今後の取り組みとして重要な課題である。