はじめに
23年間ジュネーブの国連本部に勤めてきたが、当時に比べると、人権センターの設置(80年)、高等弁務官の設置(’94)などを経て、人権に関わる専任職員は国連で計1100人を超えている。しかし、国連組織全体から見ると人権セクションの規模は小さく、予算・人権・権限も脆弱であるといえる。そこで、今般の国連改革に伴い、人権について組織・管理体制、予算に関する改革が進んでいる。この改革についての経緯をまず示しておく。
1.人権の主流化
1997年、事務総長の国連改革に関する報告書は、「国連全体として人権を扱う」として、各部局の仕事に人権を組み込むとした。例えば、ダム開発に伴う強制移住が問題になる場合があるが、これは、ダム建設の計画段階で人権の考え方を踏まえていれば、回避できた事態であったといえるだろう。つまり、人権の視点を持つか否かで、社会のあり方が大きく異なってくるのである。このようなアプローチを「人権の主流化(Human Rights Mainstreaming)」と呼んでいる。2002年には、第二の事務総長報告書が公にされ、「アクション」の二番目に、人権が扱われている。ここでは、人権は問題が発生した最も近いところで取り組まれなければならないとして、人権に関する調整官をおき、各国の人権状況の把握と、各部局間の共通の認識をもつこととし、援助計画などについてもアセスメント段階から人権専門スタッフが関与するようになった。ここで、他の部局との不協和音を緩和するために、「協調の精神」が強調されている。
2.2005年事務総長提案
2000年のミレニアム開発目標の成果を検討する会合を経て、本年3月事務総長提案が示された。ここでは18のターゲットが挙げられているが、ここでは人権を国連活動の中心に据え、民間組織や国家、政府間国際組織と協調して取り組むべきとしている。また、問題の発生している地域での対応・対策強化や高等弁務官の主導的役割の確立といった人権高等弁務官事務所の強化、人権委員会を常設の人権理事会に改組することなどが提案されている。但し、政府間ではいろいろと考えのあわないところがあり、その構成などがどうなるかは現時点では不明である。また、いわゆる1503手続や特別会期についての帰趨も不明であるし、小委員会に関する記述もない。この点については結論は出ていないといえるだろう。
但し、この提案に対して、高等弁務官事務所はコメントを出しており、管理能力の強化や他組織との連携などを挙げているが、財源の削減などを盛り込んでいない。報告者の私見では、このような考え方には批判的である。人や資金を増やせば何とかなるという考え方は誤りで、アプローチを替える必要があろう。この点については、これまでの人権に関するアプローチが欧州中心的なものであったが、各国の実情が異なる点をどう踏まえるかが重要であろう。つまり、人権の普遍性を活かしながら、各国の実情を勘案して、独自性を活かした人権の考え方を生み出すべきではないだろうか。