12月10日、拡大国際人権部会を開き、今、国際人権で最も関心を集めている問題の一つである「職業と世系に基づく差別」の撤廃を求めて議論を行った。インド・ダリット学研究所所長のスカデオ・ソラットさん、アフリカの人権NGO、RADDHOのアブドゥル・カマラさん、部落解放同盟中央本部委員長の組坂繁之さん、インドのユナイテッド神学大学准教授ナリニ・アレスさん、そして国連人権小委員会委員の鄭鎮星さんをゲストに迎え、当研究所所長友永健三の司会で部会は進行した。以下にその概要を報告する。
ソラットさんは、「インドでは、1947年の独立後、平等と非差別を謳った憲法をはじめ、反不可触法や留保制度の立法措置がとられてきた。しかしヒンズー教の教えに基づくカースト制度は3000年の歴史を経て今日もなお存在しており、その制度に組み込まれた不平等の原則は、近代の法的措置とは関係なく、人々の生活を大きく支配している。1950年以降実施されてきた特別措置と近年の経済発展に伴い、ダリットの生活水準は50年前と比較して改善はしたが、その他の階層の人々との格差は縮まっていない。雇用からの締め出しや食堂等への入店拒否を始め、市民生活における差別事件は農村地域を中心に多数記録されているし、ダリットに対する傷害や殺人事件も横行している、」と厳しい差別の現状を報告した。
アレスさんは、「ダリット女性はダリットとしてまた女性として差別を受けている。ダリットに対する暴力事件は跡を絶たないが、女性や子どもはそうした暴力の一番の被害者である。また、夫に仕事がなく、アルコールに依存する場合も多いので、女性たちは自助グループを作り生計を立てている、」という複合差別の問題を指摘した。
次にカマラさんが、「セネガルでは、古代に自由人とカースト(鍛冶屋、金細工、革職人等の職能集団)と奴隷(主に、戦闘に敗れた側の捕虜)の3つの社会層が形成された。奴隷は廃止されたものの、今日でも階層社会は続いている。憲法で万人の平等が謳われ、カースト出身者が政府や企業の要職に就くことも珍しくなくなったが、彼らに対する差別意識は存在し、とりわけカースト出身者との結婚には猛烈な反対がある。残念ながら、人々はこれを運命として受け入れている。アフリカでは、この問題に取り組む運動がない」と述べた。
組坂繁之さんは、「1965年の同和対策審議会の答申と1969年の同和対策事業特別措置法により、部落の環境改善は一定進んだが、行政書士による戸籍の不正入手や大量差別はがき事件など、部落に対する差別行為は頻繁に起きている。また、来年5月に第三次再審請求を予定している狭山差別裁判闘争や、人権侵害救済法の制定および独立した国内人権機関など、運動として大きな課題がある。それらの実現に向けて努力を続けたい」と述べた。
鄭鎮星さんは、国連の人権機構の機能や役割と、それに対してNGOを始めとした市民社会がどのように影響を及ぼしうるかについて、『職業と世系に基づく差別』の問題を取り巻く動きを例にしながら解説した。「NGOの国際的な働きかけにより、国連レベルでこの問題についての原則と指針作りが進められるようになったが、今後もこうしたNGOの役割は非常に重要で期待される、」と締めくくった。
午後には、堺市市民人権局、大阪同企連そして同宗連の代表より、自治体、企業、宗教組織として、これまでとりくんできた部落・人権課題に関する報告をうけた。部落解放同盟がこの差別の撤廃に向けた提言をすでに策定しているが、これに対する意見を部会の参加者がそれぞれ出し合った。それらを取り入れ、さらにこの提言を発展させ、国際的な市民のネットワークで国連に届けたい。