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2006.06.26
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権・学習会報告
2005年11月27日
カーストとジェンダーに基づく複合差別をなくすために
-ネパールFEDOの活動から学ぶ-

レネ・シジャパティ(FEDO理事)
アニタ・シュレスタ(FEDO専従職員)

 FEDO(フェミニスト・ダリット協会)は、ジェンダーとカーストに基づく差別と闘い、公正で平等な社会を実現するために1994年に設立された。人口2,300万人の20%を占める(NGO調査)ダリットは、21世紀の今も"穢れた"存在としてみなされ、様々なレベルで非人間的な扱いを受けている。ネパールは世界の最貧国の一つである。全人口の38%が貧困ライン以下の生活をしており、その内の65%をダリットが占めている。

 最近になり、ようやく政府はダリット問題に注意を向けはじめ、'96年にはダリット開発委員会、'02年には国家ダリット委員会が設置された。最高裁でもダリットの人権に関する判決がいくつも出ている。一例として、売春で生計を立てているダリット女性の子どもの市民権を巡り、最高裁は母親の名前で出生届けを出すことを認め、子どもは市民権を得た。父権社会のネパールでは、通常、出生届けは父親の名前でしか受けつけない。

 しかし実社会ではまだまだ差別的慣行が残っている。農村部を中心にした公共の水汲み場、ヒンドゥー寺院、飲食店などへのダリットの出入り禁止はその典型である。学校でも教員や生徒からダリットの生徒は差別を受けるため、中途退学する子どもたちが多数いる。1年前、ドディ郡のある学校で、ダリットの高校一年男子生徒が、喉が渇いたので学校に置いてある水差しで水を飲んだところ、非ダリットの学生や教員に取り囲まれ、殴られた。挙句の果てにその学生は数日間の停学処分をうけた。

 タライ平野のダッタリ郡では、教員がダリットの生徒に体罰として石を投げ、怪我をさせた。学校での体罰が一般的なネパールでは、通常、教員は木の枝を鞭に使う。この事件では、鞭を持つ自分の手にダリット生徒の"穢れ"が伝播しないよう、教員は石を投げた。ダリットの組織が学校当局に抗議したため、その教員は懲戒免職となった。

 都市部でも、表面にこそ出ないが、陰湿な差別が行われている。例えば、ダリットと特定できる家族名の人に家主はアパートを貸さない。偽名を使って入居しても後日それが発覚すれば退去させられる。教育を受けた人々の中にも差別意識は強く、それまで敬語で喋っていたのに、相手がダリットであると分かると言葉遣いがぞんざいになる。

 そのような中、ダリット女性はダリット差別と女性差別の二重の苦しみにおかれ、三流市民の扱いを受けている。ダリット女性の識字率は9%であり、ほとんどの女性たちは権利意識をもたないまま、踏みつけられている。ネパールにも女性団体が多数あるが、高位カーストの女性たちが中心となっているため、ダリット女性の権利は問題視されない。ダリット解放運動においても、女性の解放は二の次である。そのため、ダリット女性たちは、女性運動、ダリット解放運動の両者から締め出されている。

 ダリット女性たちは性的搾取と人身売買の犠牲者でもある。2004年の調査によれば、ネパールからインドなどに売られていく女性の60%はダリットであり、2001年調査の30%から大きく増えた。近年、農村地域を中心に政府軍とマオイスト軍の対立が激化しているが、農村地域に集住するダリットたちは、そのとばっちりを受けている。

 男たちは、マオイストからリクルートされることを恐れ、地域を逃げ出したり、仕事を求めてインドなどに出て行き、残された女たちが一家を支える。あるいは、叛乱軍に関与していると容疑をかけられ、逮捕され、失踪する男たちもいる。夫が出ていった後の身の安全も女性たちが直面する新しい問題であり、義父や義兄にレイプされることもある。FEDOにはシェルターがないため、ダリットの被害女性は家に帰らざるをえないし、身内から口止めをされ、警察に被害を訴えることもできない。

 現在FEDOは、ネパールの16の郡で、人権教育やジェンダー教育などの教育活動や、市民権、出生届け、婚姻届け、DVなどのキャンペーン、あるいはダリットや女性にまつわる古くからの迷信などを廃止するキャンペーンに取り組んでいる。さらに大局的に言えば、こうしたことの基盤となる包括的な民主主義の確立を目指して運動をしている。ダリット女性を含め、周辺に追いやられたコミュニティが、社会の一員として、政治・経済・社会活動に参加できるようになってこそ、差別のない民主社会が実現する。

(文責 小森 恵)