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2007.09.30
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権・人権部会 学習会報告
2007年07月30日

国連・拷問禁止委員会による日本政府第1回政府報告書審査に立ち会って

桑山亜也(NPO法人監獄人権センター事務局、龍谷大学大学院研究生)

 今回の国際人権部会では、拷問等禁止条約に基づく日本政府報告書審査に関してNGOの立場から手続に関わった桑山亜也さんから、条約システムの概要と審査の流れ、さらには最終見解の内容とその活用のあり方について報告を受けた。

 拷問等禁止条約は、70年代の拷問廃止キャンペーンの結果策定されたものである。拷問禁止宣言を契機として、様々な国際文書が策定され、1984年に条約が採択された。この条約の特徴は、拷問の禁止・防止のために、国際的及び国内的実施のメカニズムを構築するところにある。後者の措置を担うのが、拷問禁止委員会(CAT)である。これらの措置を通じて、拷問等の被害者救済と防止を図っている。なお2002年には選択議定書が採択され、事前防止メカニズムが強化された。これにより、委員会委員が拘禁場所に出向き、様々な勧告を行うことが可能になった。

 日本についていえば、加入は遅く1999年であり、今回の報告書も2005年と遅れた。その理由は定かではない。なお、選択議定書の締結には消極的である。この条約の法的意義については国内法学者の中で議論があるが、自由権規約や憲法との関わりでは、人権のカタログ規定のうち、拷問等に関わるものを実現するために役立ち得る。日本国内で条約の意義を高めていくことが課題であろう。

 拷問禁止委員会は、条約上、報告審査制度のほかに、大規模人権侵害発生時の調査制度、国家通報制度、個人通報制度システムを担っているが、日本についていえば、通報制度に関する委員会権限の受諾宣言を行っていないため、報告制度を通じた条約実施の道を探る必要がある。なお、委員会委員は10人であるが、地理的公平と法律・人権関係での能力を有するという資質が選出の基準となっている。ただし、この両者が両立するかどうかは課題といえるかもしれない。

 実際の審査状況についてみると、条約上、発効後1年以内に政府報告書を提出することとなっているが、日本は5年遅れた。とはいえ、他の締約国に比して早い方という評価もある。この審査プロセスでは「建設的対話」という性格が重視され、条約違反を追及する場ではない。委員会は締約国の状況を、締約国は条約の内容を理解するよう、対話を進めている。今回、計6時間を費やして審査されたが、まず政府がプレゼンし、委員が質問する。そして次の日に政府が回答し、さらに再質問・再回答を行うという流れであった。今回は、NGOのために公式の会合が新たにもたれた。今後、この機会を十分に活用する必要があろう。今回、幾つかのNGOが審査に関わったが、報告者が所属する監獄人権センターは、入管問題調査会、東京精神医療人権センターとともにCATネットワークを結成してロビイングを行った。事前に外務省もヒアリングを行ったが、意見交換というよりは、意見聴取という形であり、政府報告書にはこのヒアリングの成果は見られず、関連法令の条文が並んでいるに過ぎなかった。審査の過程で、特に拘禁施設での不服申立制度について議論になっていたが、政府の回答は報告書の内容の域を出るものではなかった。

 最終見解では、ロビイングの成果がみられた(人身売買の被害者など女性問題が反映されるなど)。他方で、第3条のノン・ルフールマン原則の項目に難民認定手続の問題と入管施設内処遇の問題とが扱われており、NGO側としては疑問が残る。さらに、最後の勧告部分では、特に重要な課題(ノン・ルフールマン原則、代用監獄問題、自白、人身売買問題)について1年以内にフォローアップ情報を提出するよう求められている。

 この見解の活用のあり方については、やはり法的拘束力の問題がある。これを法理論的に詰めていく必要があるのではないか。なお、今回の審査に関して、社民党の保坂展人代議士が質問趣意書という形で政府の見解を求めた。このような活用法もあるのではないか。最後に、NGOの役割としては、これまで政府の対応を批判するという側面が強かったが、むしろ見解の内容をいかにフィードバックさせるかという、条約実施の担い手として自覚することが課題であろう。

(文責:李嘉永)