7月15日、オーストラリア・ヴィクトリア州の1先住民集団ヨルタ・ヨルタ長老で、メルボルン大学にて教鞭を執るウェイン・アトキンソン博士より、ヨルタ・ヨルタ集団の市民権と土地権獲得の運動に焦点を当て今日のオーストラリア先住民が直面する問題に関する報告がなされた。博士は7月1日から4日まで北海道平取市二風谷町と札幌市内で開催された先住民族サミットアイヌモシリ2008に招待され、その他の世界中から招聘された先住民族代表とともに二風谷宣言を完成させるため日本を訪問した。今回の報告は、博士が本サミット終了後に大阪を訪れる機会があり、博士との親交が厚くオーストラリア先住民の権利獲得運動に焦点を当て研究を進める友永雄吾氏の紹介と通訳の助けもあり開かれた。
アトキンソン博士は、まずヨルタ・ヨルタに関する歴史的背景を述べ、その後、1994年から2002年まで続いたヨルタ・ヨルタ先住民権原訴訟に関する事例が説明された。ついで、本訴訟に敗訴したヨルタ・ヨルタの人々が、環境NGOs、都市の知識人や学生と連帯を築き、草の根の運動に基づいて土地管理のための権利を有する伝統集団としての地位をヴィクトリア州政府との交渉により獲得する必要があることが指摘された。
ヨルタ・ヨルタの本来の故地とは、オーストラリアにて2番目に長いマレー川の一部と、近年渡り鳥の条約やラムサール条約の重要湿地帯として指定され、世界的にも稀なレッドガム(ユーカリの一種)の大木が生息するバルマ森林を含む。近年の重要な動きとして、ヴィクトリア州により本河川と森林の環境調査を委託されたヴィクトリア環境評価委員会より提出された報告書と勧告が提出されている。
殊に、本勧告には、バルマ森林の国立公園化、マレー川の旱魃やバルマ森林内に生息する動植物の危機的状況を改善するための方策が示されており、またヨルタ・ヨルタが伝統集団であることにも多くの紙幅が取られている。アトキンソン博士からは、本勧告をヴィクトリア州政府が早急に受け入れ、さらに如何に本勧告を効果的に実行できるかが重要であるとの指摘があった。
さらに博士は、ヴィクトリア州の持続可能な環境に関する省の下部組織パークス・ヴィクトリアにより1984年に建設され運営管理されているヨルタ・ヨルタの文化センターが現在閉鎖に追い込まれている現状を報告した。本現状をさらに深く分析するため、ヴィクトリア州の観光に関する状況を統計資料に基づき示し、観光予算の多くが非先住民の植民地時期の名残である建物などに当てられ、先住民に公平に分配されていないことが指摘された。また観光を促進するための委員会に1人も先住民の代表が入っていないことも強調された。
アトキンソン博士は、このような否定の現状を促す要因を、目に見える差別ではなく、制度の中に深く組み込まれた目に見えない人種差別、すなわち制度的人種主義であると考察する。博士は、本報告の最後に、今回の報告を契機として部落問題について学び、今後オーストラリア先住民問題と部落問題の架け橋としての役割を果たしていきたいとの抱負も述べられた。
報告終了後は、参加者より北部準州のアボリジナル・コミュニティ内部で現在起きている子どもや女性に対する暴力を改善するために連邦政府が実施している強制的介入について、オーストラリア国内での人権に関する教育の問題や先住民当事者団体の役割についてなど、幅広い質疑応答がなされ大変意義のある充実した報告会となった。