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2009.03.27
部会・研究会活動 <国際人権部会>
 
国際人権部会・女性部会 学習会報告
2009年1月19日

現代社会における部落問題 ―国際的視点より

イアン・ニアリーさん(オックスフォード大学日産日本研究所所長)

 日本政治過程史を専攻しているイアン・ニアリーさんより、松本治一郎の足跡から、日本の近代政治史における部落解放運動の意義を検討した研究書「部落問題と近代日本:松本治一郎伝記(1887~1966年)」について報告いただいた。

(1)本の構成

 まず、まえがきでは、松本治一郎の解放運動、そして政治活動を概括した上で、英国における日本近現代史における日本社会党や社会運動に対する関心が低いことを指摘し、松本の足跡を紹介することで、新たな視座を読者に提供することが目的であるとしている。

 第1章では松本の子ども時代・青年期の福岡での生活や満州での活動、さらには帰国後水平運動に参画するまでの動きを紹介し、その後の政治活動の原点はどこにあるのかを検討している。第2章では水平社での活動、第3章は検挙と初期の政治活動について検討しているが、これは高山文彦さんや森山沾一さんの伝記が示した足跡と同様のものである。

 第4章では戦前の国会議員としての松本治一郎の活動を振り返っているが、ここでは特に政党政治との関係を記している。他方、第5章では、他の伝記ではあまりカバーされていない、戦時中での国会活動、特に「八日会」とのかかわりについて検討している。また、戦中における北原泰作や朝田善之助、上田音市などとの関わりについても検討している。

 第6章では、終戦直後、占領下において、幅広い日本政治の変動の中で、どのような活動をしたのかについて検討している。第7章では、50年代、政治復帰後の国際的な活動を紹介している。第8章では晩年期、同和対策事業に対する松本の捉え方、さらにはその後の部落解放運動と同和対策について若干検討した。

(2)研究の目的

 本書の目的は次の4点である。1880年から1996年までの日本政治史を、新たな視点から考察すること、20世紀の日本を考える際に、その本流に部落問題に関する考察を組み込むこと、戦時の活動や、戦後の国際活動など、幾つかの側面に的を絞ることによって、松本治一郎をより包括的に理解すること、さらには、英語による1950年代・60年代の日本史理解に貢献することである。英国では、同時期の日本が、高度経済成長直前の平穏な時代と認識されているが、部落解放運動をたどることで、活発な政治変動が行われていたことを示すということである。

(3)今後の課題

 今回、構想しながら実現しなかったテーマが幾つかある。すなわち、松本組の経営に関して、経営者としてのスキルや、そこから得た資金が政治的キャリア蓄積に果たした役割について、また、日本及び世界における平和運動に対して果たした貢献についてである。特に後者に関しては、現在認識されているよりもっと重要な存在だったのではないかと考えられる。とりわけ、ストックホルムやオーストラリア・ニュージーランド訪問について、書くべきことがあるだろう。さらには、人間松本について、より詳細に書きたいと考えている。

 その他、松本の思想の中核についてや、戦争責任について戦後の考え方に及ぼした松本の影響、さらには松本と博多との関係、特に玄洋社の役割について検討したい。

 また、松本を軸にした運動史のみならず、皮革産業と政府の政策や、解放運動の発展と同和政策についても研究したいと考えている。

※なお、同書は、本年秋頃英文で発行予定です。

(文責:李嘉永)