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学校教育部会・学習会報告
2001年10月4日

『障害学』(および『障害文化』論)の主張が
人権教育・啓発に提起するもの
〜多文化教育概念を一つの手がかりにして〜

  (報告)松波めぐみ(大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)

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 表題にある『障害学』という分野は、日本ではマイナーであるが、当事者運動から生まれてきた学際的な領域である。従来の「障害、障害者」に関する私たちの価値観を根本から揺さぶり、同じく「当事者の学」である女性学がそうであったように、その提起は「教育」に対して多くの示唆を持っている。 

 次に障害学とは何かということであるが、その定義は、「障害、障害者を社会、文化の視点から考え直し、従来の『障害者すなわち医療、リハビリテーション、社会福祉、特殊教育の対象』といった『枠』から障害、障害者を解放する試み」あるいは「障害を切り口とした、知の運動」とされている。また「障害学」が成立、発展した背景として、1.1970年以降の障害者運動の質的転換、2.1995年のろう文化宣言に代表される「ろう文化運動」の衝撃、3.ほかのマイノリティの運動と「アイデンティティの政治」、新しい学の成立(女性学など)といったことが考えられる。

 障害学の基本概念である『社会モデル』は、「障害の克服」を個人の責任でなく、社会の責任・義務とするということへ、発想の転換を根拠付けた。教育関係者をはじめ、「健常者」の側が障害と健常をめぐる自分自身の価値観を疑い、問い直す必要があるのではないか。

 教育の場で繰り返し語られる「前向き・善良な障害者像」は、障害者がありのままの姿で生きることを抑圧する。そして、障害者は、際限ない「克服への努力」に駆り立てられてしまうこととなる。また健常者の側にとっては現実に障害者に出会ったときの偏見を強める。

 では、どのようにすれば「障害―健常」をめぐる既存の価値観を揺さぶり、問い直し、社会変革にもつながるような教育の中身を作っていけるのか。私はそのヒントは「女性学」や「多文化教育」にあると思う。その場合の教育というのは、学校教育というより、社会教育の分野である。実際、自治体の行う人権啓発をみたとき、これで障害者が生きやすくなるとは思えないものが多数ある。そして、もっと障害者の生活、運動を人権教育に取り入れられるのではないか。そういった意味で、障害学を教育に活かす事ができるのではないかと思う。(N.T)