調査研究

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2005.11.16
部会・研究会活動 <学校教育部会>
 
学校教育部会・学習会報告
2005年9月3日
PISA調査から学べること

小倉康(国立教育政策研究所 総括研究官)

国による学力測定の現状

 国が行っている・参加している大きな学力調査として、教育課程実施状況調査、IEA/TIMSS調査、OECD/PISA調査がある。教育課程実施状況調査は、学習指導要領に基づく教育課程の実現状況を、ペーパーテストで調査可能な内容について行うものである。2001年度の調査結果は1994、1995年度調査に比べて学力低下が明らかになったが、2003年度調査では学力と意識の面で改善傾向がみられた。また、同時に行った質問紙調査で学習意欲面の重要性も明らかになった。

 IEA/TIMSS調査は、ペーパーテストにより理数学力の到達状況を測定する国際調査であるが、各国の教育課程や評価観点に対応していないため、未履修の問題も含めて幅広く出題される。2003年調査では小学生の理科と中学生の数学が、前回調査に比べて成績が下がった。ただ、日本の子どもは未履修の問題でも他国に比べて思考力を用いて推論する力が鍛えられているという結果も出ており、意識面でも改善傾向にある。

 OECD/PISA調査もペーパーテストと質問紙調査で行われるが、幅広い知識・概念の適用力や思考のプロセスを重視しているため、教科書からかなり離れた内容になっている。2000年に読解力中心で、2003年に数学リテラシー中心で実施され、2003年調査では読解力が国際平均程度に低下したことが明らかになった。

 PISA調査について

 OECDでは、教育の成果として市民にいかなるコンピテンス(資質や能力)の育成を期待するかを明らかにするためのDeSeCoプロジェクトを1997年に始めた。このプロジェクトでは、個人と社会が発展するために、教育でコンピテンスを育成することが必要としている。また、コンピテンスの内容として、「ツールを効果的に用いる」「異質な集団において活躍できる」「自律して活動できる」の3つの領域を提起している。これらの領域は日本の「生きる力」の概念と共通点が多い。

 PISA調査は、教育におけるこのようなコンピテンスの育成状況の実態を知るために計画されたものである。調査対象は15歳段階であらゆる教育機関に通っている生徒であり、日本では高校1年生段階の7月に調査を行うことになる。2003年調査は数学リテラシーを中心に、読解力、科学リテラシー、問題解決能力の4領域の内容が出題された。

2003年調査では、日本の生徒は読解力以外は国際的に高いという結果が明らかになった。また、同時に行われた質問紙調査で、日本は家庭の社会経済的背景が学力格差に影響している度合いがOECD平均よりも低いが、家庭の教育環境の格差が学力の学校間格差に強く結びついていることが明らかになった。

今後の課題

 PISA調査の結果をどう捉えるのかということについて、いくつか課題がある。まず、PISA調査ではコンピテンスの一部をペーパーテストで測定しているに過ぎない。また、読解力の低下に対して、教科学習を充実させることで向上するかということもわからない。さらに、教育文化や教育システムが異なる他の国の調査結果をどう捉えるかということも課題である。

 次に、国際調査結果を踏まえ、日本がこれまで進めてきた「生きる力」と「確かな学力」の方向性をどう捉えるかということも大きな課題である。「確かな学力」の育成のために、学校現場ではさまざまな努力がなされている。また、学力調査を活用して教育課程や学習指導の改善も行ってきた。PISA調査の結果をみて、ペーパーテストで測る学力を重視し過ぎると不整合な面が出てくる。目標実現のために学校と教員に対してどのようにサポートできるかという具体的な議論が必要である。

 最後に、国際調査を行うと、日本の生徒は学習意欲面で他の国よりも低い結果が出てくる。学習達成行動を導くために、学習への価値意識を高めるとともに、達成への期待感(付加価値)を高め、同時に環境要因を適正化していくような多面的な取組みが必要である。

(文責 事務局)