調査研究

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2005.11.16
部会・研究会活動 <学校教育部会>
 
学校教育・教育政策 合同部会・学習会報告
2007年8月10日
大阪の部落の子どもの学力状況を考える
―2006年・大阪府学力実態調査結果から

米川英樹(大阪教育大学)

 8月10日、教育政策・学校教育合同部会として、米川英樹(大阪教育大学)さんから以下のような報告をいただいた。

 最初に戦後の学力実態調査をめぐる歴史が概括的に報告され、続いて、2006年度の大阪府学力実態等調査結果に基づく、府平均と同和地区の比較を中心に報告がされた。

1、学力調査結果全体について

 国語では、ヒストグラムを見ると、小6では府平均も同和地区も正規分布を描いている(ただし地区の方が低い点数の方にシフト)が、中3では地区が点数が低い方へシフトした「2こぶラクダ」状態で学力が2極化している。

 算数・数学では、小6で既に府平均も地区も正規分布ではなく「2こぶラクダ」状態で、地区の方がさらに明確である。中3では、その傾向が一層顕著となっている。教員にとってもこれは深刻な実態で、授業をどの層にターゲットを絞って進めればいいのかが決められず、一斉授業の限度を超しているのではないかと考えられるのである。

 地区の無答率の高さも深刻です。算数・数学についての無答率は、小6では、府平均5.4ポイント、地区14.3ポイント、中3では、それぞれ16.4ポイント、32.2ポイントとなっている。

2、学力形成の要因別の概要について

 調査の中で、学力形成に関連していると考えられる7つの要因を設定した。具体的には(1)生徒の生活状況、(2)自尊感情、(3)学校での学習態度、(4)家庭での学習習慣、(5)子どもの生活習慣、(6)保護者の子育ての様子、(7)家庭の環境である。その関連性を、府平均と地区とで差が見られたもの(比較できるもの)を中心に、中3を対象に見ていく。

(1)生徒の生活状況では、「学習塾以外の家庭の学習時間」で、1時間以上する層としない層とで学力状況の差が大きく出てきており、地区の場合、明らかに少ない。また「進路希望」でも、「大学進学」希望者ほど学力は高く、実際の進路期待は保護者調査からみると、「高校進学希望」が府平均26.7%、地区42.9%、「大学進学希望」では府平均46.5%、地区29.3%となっている。通塾と学力の関連も明確で、特に週3回以上、塾に通っている場合、強い関連性が出ている。そして非通塾率を見ると、府平均は35.4%に対し、地区は60.6%と大きな差が存在している。通塾自体が「社会階層による学力格差の温床」ではあるが、事実の持つ意味は重く受け止める必要がある。

(3)学校での学習態度では、「先生や友だちの話はよく聞いている」「板書されたことはノートなどにとる」「授業中に、友だちと勉強以外のことで、おしゃべりをすることがある」の3項目で調査したが、強い関連性があり、府平均の方が地区よりも学習態度が形成されている結果が見られた。

(5)子どもの生活習慣では、「朝、学校に間に合う時間に起きる」「家で朝食を食べる」「前の日に学校の用意をする」の3項目を見たが、これも学力形成と関連性を示しており、さらに地区と府平均とでは、中3でその差が拡大していることが明らかであった。

(6)保護者の子育ての様子(家庭の文化階層)では、「小さい頃、家の人が絵本や本を読んでくれた」「博物館や美術館に連れて行ってもらったことがある」「勉強を見てもらったことがある」「家の人が学校での様子を聞いてくれる」の4つの側面から見た。ここでは、1.絵本体験と学校の様子を聞くで、府平均と地区で顕著な差があること、2.学力との関連性は強いこと、3.1993年調査と比較すると、府も地区も共に保護者の関わりが急減していることが見られた。

(7)家庭の環境では、「テレビ」「ビデオ、DVD等」や「携帯電話」で、地区対象生徒の所有率が府平均よりも高く、逆に「学習机」「自分の部屋」では府平均の方の所有率が高いことがわかる。そしてコンピュータと学習机の所有は学力を高め、テレビと携帯電話の所有は学力を低める方向の作用する傾向があることも明らかであった。

3、学校の取組み

 学校調査から明らかになった点を見ていきたい。

 第1に、学校の要保護率と校内暴力件数である。小学校でも中学校でも、対象校(地区生徒が通う学校)は要保護率が高く、特に「10%以上20%未満」「20%以上」については、対象校が圧倒的に多い。そして小学校でも中学校でも、要保護率が高くなるほど平均学力の低下が明らかである。校内暴力発生件数を見ると、興味深いことに小学校の方が対象校と府全体との差が大きいことがわかる。中学校になると、対象校以外でも事件が多発しているからである。これについても、学力平均との関係を見てみると、校内暴力の発生が多くある学校ほど、学力平均が低い傾向が見て取れる。

 第2に、地域連携について見ていく。学校側からの地域連携として見た「学校協議会」「外部人材活用」「家庭訪問」「地域活動への教員参加」では、対象校の方が小中いずれも高く、特に家庭訪問は「普段からよくしている」が小学校で対象校82.5%(府平均44.4%)、中学校で対象校79.4%(62.1%)と大きな差がある。保護者からの学校連携では、小学校が中学校より活発だが、対象校では「親子学習」「校内に集う場」が、府平均では「授業参観」「通学路の見回り」が活発な傾向がある。そして学力との関係では、顕著とまでは言えないが、好影響を与えている。

 第3に、学校の特色ある取組みだが、小学校では、「授業評価」以外の項目で、府平均よりも高い取組みであった。特に「学校独自の問題集作成」については、府平均が7.1%、対象校では37.5%と5倍以上の実施率であった。中学校では小学校ほど、府平均と対象校の差はないが、「朝読書」や「いきいきスクール」(授業での小中連携)では府平均よりも対象校が実施率が高いが、「スキルタイム」「教科選択で検定コースを設定」(漢字検定など)「学校独自の問題集」などでは対象校よりも府平均の実施率が高い。また、対象校に絞っての場合だが、小学校でも中学校でも取組みが「4-5」あるいは「4-6」のカテゴリーでは、それより少ない取組みの学校よりも平均学力が高いことが明らかである。

 この後、基本的に1.学力調査結果で明らかになったこと、2.その結果を踏まえて、学校でできること、行政総体としてすべきこと、地域でできることは何か、3.学力調査のあり方、学力観、の3点にわたり活発な議論がされ終了した。

(注1)詳細な報告は、紀要『部落解放研究』10月号に掲載されるのでご参照ください。

(注2)また報告書としては、大阪府教育委員会『平成18年度 大阪府学力等実態調査報告書』『平成18年度 同和問題の解決に向けた実態等調査(平成12年度)対象地域に居住する児童生徒の学力等の実態の分析』(ともに2007年3月)が出ています。