「三重県高等学校学力・生活実態調査」は、1995年度全日制高校生在籍3年次概ね20分の1にあたる1184名を抽出し、さらに全日制高校在籍同和地区生徒3年次生についてはその全てを把握することを目標に387名を対象として調査された。また、生徒及び保護者に対する意識調査、翌年3月の成績と進路に関する学校調査も合わせて実施された。
同和地区生徒の教育問題に関わる調査の中で、高校生を対象としたものは数少なく、奨学生以外の同和地区生徒全員を対象にした本調査は貴重なデータである。また、従来の高校生調査ではなされなかった、生徒意識・保護者意識・成績と進路の3つの領域を同時に調査するものであり、高校教育全般にわたっても貴重なデータを提供するものである。
本調査の調査結果から見ると、依然として高校教育が、同和地区出身であることや、家庭の学歴階層、さらには性別によって深刻な不平等を抱えていることが浮き彫りになったと言える。そしてこれらの不平等の背景に、家庭や地域の文化的な状況等、学校の努力だけでは解決が困難な要因が関わっているということも、明らかになった。
一例を挙げると、家庭の学歴階層による進路・学力の格差に対しては、所得状況の厳しさによって進路が阻まれている面に加えて、学歴階層の低い家庭ほど限られた所得が生徒の学習に対して疎外要因となるテレビやビデオなどの娯楽的消費に回され、逆に進学資金準備が心がけられていないなど、保護者の養育態度に気になる傾向が見出される。
また同和地区生徒の高校卒業後の進路は、全県平均と比較すれば著しく就職者が多く、4年生大学進学者が少ない。
このような格差の背景にある要因として、一つは階層的要因が挙げられる。地区保護者の学歴では著しく中学校卒が多く、大卒が殆どいないために、先に見た階層的な進路格差が同和地区の進路実態に大きな影を落とすのである。しかし、地区生徒と地区外生徒で同じ階層的条件のもの同士を比較した場合でも、地区生徒の進路は就職が多く、四年生大学進学者が少ないという結果が生じる。このような傾向は特に保護者学歴が高校卒の生徒同士を比較した場合に顕著であり、ここに同和地区特有の進路疎外要因が隠されている。つまり、階層的格差の解消だけでは地区生徒の進路問題は解決しないと言える。
高校生の全般的な状況を見たとき、モノを持つことができない、お金がないので進学できないというかつての「貧困」とは異なって、モノを次々に消費することによって自己実現の機会を失っていく「文化的貧困」が、今日の日本の階層性であるといえる。高度消費社会に埋没させられることから次の世代をどのように救うのか。学校教育ばかりでなく、家庭・地域を含めた日本の教育文化につきつけられた重大な課題である。 (N.T)
参照/『部落解放研究』138号 (2月刊)