長期化する不況の影響を受け、高校生の就職状況は厳しさを増している。それらの現状と課題について、日本労働研究機構の小杉礼子さんに報告いただいた。
高校生の就職状況に最も影響を与えているのが若者労働市場の変化である。若年失業率は、2001年現在、15〜24歳男性で11.9%、女性で9.6%であり、低年齢、低学歴層で顕著である。また、かつて中高年女性が多くの割合を占めていたアルバイト・パート市場において、若年女性の割合が急増している。
昨今、フリーターの増加が議論となっているが、フリーターの定義はあいまいであり、日本労働研究機構では「15-34歳で在学しておらず、女性は未婚の者のうち、パートアルバイト雇用者及び無業で通学も家事もしておらずパートアルバイトの仕事を希望する者」としている。フリーターは、1982年では60万人程度であったが、1997年には173万人、2001年には206万人に増加していると考えられる。これらフリーターを構成している層は、低年齢・低学歴層であり、なおかつ男性よりも女性の方が多い。女性・低年齢・低学歴が、フリーターの3条件なのである。フリーター層は失業者層とかなり近似していることがわかる。
では、高校生の求人はどのように変化しているのだろうか。高校生の求人倍率は、バブル期と比較して求人が1/7に落ち込んでいる。大企業は高卒採用から撤退し、かつて高卒者が参入していたサービス業や製造業では、サービス業は大卒者へ、製造業は中国などの海外へと構造転換が起こっており、高卒市場は縮小していった。このように構造転換したものが簡単に元に戻るとは考えにくく、景気がよくなれば採用が再開されるというように楽観視することはできない。
これまでは企業と高校がリンクして、高校生の就職先を保障していた。これにはプラス・マイナスの両面があり、プラス面は失業者を出さないこと、マイナス面は、先生や周囲の人間が企業選択を行うために、本人のスキルや職業観をきたえることがあまりなかったことであった。しかし求人数の低下に伴い、これまでの学校が職を保障するというシステムが成り立たなくなりつつある。
また、これらの変化は2つの階層構造化が起こることとなる。一つは地域間階層化である。これまで求人を行えなかった地元の中小企業が労働市場に参入することにより、地域移動が少なくなる。そうすると、結局地域間格差が増大することとなる。もう一つは学校階層化である。求人数を減らす対象として、特定の学校の求人が減ることとなる。例えば、普通科で伝統がない、山間部など学校の立地条件が悪いことなど。そうすると、どの学校へ行くかによってチャンスが大きく変わってくることになる。
続いて、フリーターになる要因としては、就職の困難化があげられるが、意識面での要因もあげられる。フリーターになる高校生の職業観は、<やりたいこと志向>と<自由・気楽志向>に代表される。<やりたいこと>を早めに決めることは重要なことではあるが、あまりにも<やりたいこと>が狭すぎると、かえって就職を困難にすることになる。また、学校生活をみると、成績が低い・欠席が多い・アルバイト経験が高いことがフリーターになる高校生の特徴としてあげられる。中には週平均20時間近くアルバイトをしている高校生もおり、彼/彼女らはパートタイム労働者であると同時にパートタイム高校生となのである。アルバイト経験は、サービス業を中心とした狭い職業観を形成することを促し、ひいてはフリーターという選択が合理的であって正社員は損だという意識を醸成することになる。
フリーターになった理由としては、自分にあう仕事・自由な働き方を求めた結果であると回答する率が高いが、実際には、フリーターになるとやりたいことに接する機会が少なくなる。また、正社員になるキッカケはフリーターは損だと気づくことである。これには男性の方が正社員になりやすいという性別の差や、フリーター期間が短い方が正社員になりやすいという期間の差が見られる。しかし、結局は何が何でも稼がなくてはならないという本人の意欲が重要となる。
これら困難な現状の打開に取り組むためには、トライアル雇用などを経験させて、職業人としての能力(employability)を身につけさせることと、障害者施策のように高校生を雇う企業への補助金を出す制度や、訓練生制度などを整備してそのかわり最低賃金を下げるといった、高卒者の需要を高めるなどの取り組みが必要である。また、学校には、学校の勉強と就職意欲をリンクさせることや、中退させない指導、さらに、これまでの新規学卒システムに乗らない/乗れない生徒(約3割)を視野に入れた学校内外の取り組みを社会的にしていくことが必要となる。