2003年11月13日、研究所高校部会事務局より、2校の都立高校を訪問した。足立新田高校と足立東高校。両校とも「教育課題校」として、「荒れ」や中退問題の克服に取り組むとともに、カリキュラム改革やフリーター問題等の高校改革に真正面から挑んでいる学校である。1日に2校という駆け足ではあったが、急激なスピードで進められている「都立高校改革」の一端を垣間見ることのできた貴重な訪問であった。以下、簡単に概要を報告する。
[都立足立新田高等学校]
足立新田高校は、今年、創立25年を迎える比較的歴史の浅い学校である。1994年度の都立高校入試制度の改変(グループ選抜制度から単独選抜制度への移行)後、募集定員割れが続き、入学者の中退率が50%(100名以上)を超える時期もあったという。
折しも東京都が本格的に「都立高校改革」に着手し、学校の統廃合が取り沙汰されていたころであり、足立新田高校はまさしく学校存亡の危機に直面することとなる。そのような中、1997年11月に赴任した前任校長の強固なリーダーシップにより「特色のある学校」「開かれた学校」をめざして学校改革が進められてきた。
足立新田高校の改革の様相はきわめて多岐にわたっており、ここでそのすべてに触れることはできない。以下に、いくつかの特徴的な点を紹介しておく。
「特色のある学校づくり」としては、入学者選抜方法の改革(分割募集や推薦入試における面接重視、運動能力テスト、プレゼンテーションテスト等による学力検査一辺倒からの脱却)や制服の改定(5種類から選べる制服)等のユニークな試みが挙げられる。しかし、その中核は「教育課程の再編(魅力あるカリキュラム)」と「魅力ある授業の開発(創意・工夫)」である。
中退のもっとも集中する入学間もない1学年に、他校へ先んじて、1999年度より「総合」の授業を導入した。「総合」では、生徒たちの興味・関心を引き出すべく、実践的・体験的な学習形態を重視し、様々な現代的な課題へのアプローチを図っている。
教員の指導体制はチーム・ティーチングである。続く2学年からは学系列選択科目制と称し「スポーツ健康系」「福祉教養系」「情報ビジネス系」の3つの科目群を設定した。それぞれ、将来の資格取得に向けての専門教育機関で学ぶための「基礎的知識・技術を身につける準備学習」として位置づけられているのが特徴である。
これまで、いわゆる「進学校」と足立新田高校のような「進路多様校」が、普通科高校であるがゆえに共通のカリキュラムを有して来ざるをえなかったことを考えると、本校が目の前にある生徒の生活現実を見据えるところから出発し、カリキュラムを実践的に問い直し再構築していく地道な努力を積み重ねてきた点をおおいに評価すべきであろう。
足立新田高校では、このほかに全教職員一体となった中学校訪問や頻繁に開催される学校説明会、体験入学の取り組み、学校運営連絡協議会等、「開かれた学校づくり」の実践も盛んに取り組まれている。高校には珍しく、地域と密接なつながりを積極的に模索しているといえよう。
以上のような学校改革の取り組みによって本校では大幅に中退者を減らす(2002年度生は9名)ことに成功し、入学者選抜においても志願者が大幅に増加している。今後は、更なるカリキュラム改革を追求するなかで、キャリア教育への対応を一層充実させることを期待したい。
[都立足立東高校]
足立東高校は数年前まで、地域から「廃校」を求めて署名を集められた学校である。校内での授業崩壊、地元地域での暴力沙汰、喫煙など学校は荒れに荒れた。だが、今回学校の正門を入ったとき、『体験』の授業で農業に取り組む生徒の姿が真っ先に目に入り、その表情をみるだけでも学校が一定落ち着き、活性化しているであろうことは感じられた。
足立東高校は2003年度から『エンカレッジスクール』(エンカレッジ=「元気づける」などの意味)の指定を受けている。指定を受けると、人・もの・予算等で支援を受けられるほか、カリキュラム設定や校時を弾力的に設定できる。独特のとりくみとして、
<1>独自の入学者選抜
学力検査の全廃。『面接とパーソナル・プレゼンテーション』『小論文』等を課す。やる気と目的意識を重視する。(基礎学力の面では、むしろ下がったかも、と校長)
<2>カリキュラム・校時の改編
午前中は座学、30分×3時限+50分×2時限。午後は『体験学習』と『キャリアガイダンス』『実技・実習科目』を、50分×2時限。『体験学習』は本人の興味・関心・目的意識に応じて選択。(30分授業の単位計算は、30分×3回=90分で2単位)
<3>授業方法・評価の見直し
国・数・英については習熟度別授業。場合によっては、小・中学校レベルの内容に立ち戻ることもある。定期考査は廃止。日常の授業の学習態度、小テストなどで評価。
<4>生活指導の見直し
あまりの荒れように指導放棄に陥っていた部分を立て直す。教員の指導力に差はあるが、誰でも同じ基準で生徒に対応できるような工夫をしている。(例;染色・脱色の頭髪指導は、判定困難な場合、美容師に判定してもらう、カツラ見本を基準にする等)、がある。
中退する生徒の数は一時に比べて確実に激減している。ここに至るまでの経緯は、現校長の嶋先生にお話しいただいたが、行動力・理論構築力・政治力・弁舌力、どの面においてもすばらしい力を持っていらっしゃる事が感じられた。足立東高校が再生に向けて動くことができたのは、この校長のリーダーシップが強力に働いていることは事実だと思う。
ただ、校長の示す方向で、実際に生徒に向き合い改革にあたったのは一般の教員たちであり、学校再生に向けて多くの教員が今後の足立東の教育について生な思いを出し合ったこと、その議論の中から進むべき方向性を構築していったこと、単にトップダウンで『エンカッレッジスクール』という枠組みが導入されたのではない「学校再生に向けてのプロセス」の中にこそ学ぶべきものがあるように思われた。
聞きたいことがありすぎて、『キャリアガイダンス』については伺うことが出来なかったのは残念だった。
最後に、一つ気がかりだったのは、改革が成果をあげ、入学希望者が非常に多くなり入選倍率も高くなったということである。現に改革が遅れている他の都立高校で非常にしんどくなっている現状があるらしい。改革が成功している高校の人気が高くなって、はじき出された非常にしんどい層を引き受けることになるからである。
ただ、校長先生が「やる気をみる入選制度に変わってから、入学時の学力はむしろ下がっているように思います。」とおっしゃったのは特に印象に残った。額面通りにその言葉を受け取るならば、はじき出されたのは学力面でしんどい層ではないということである。
つまり、大阪に見られるように学力・親の経済力・やる気が比例するような階層化の状況を一部、覆すような実践がここにあるということになる。結論づけるには、もっと丁寧な検証と分析が必要だが、示唆に富む組織的な教育実践であった。
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