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調査研究

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2004.04.10
部会・研究会活動 <高校教育部会>
 
高校部会・学習会報告
2004年3月2日
高校中退問題に取り組む都立高校

鈴木 高弘(アクト情報ビジネス専門学校長)

 高校部会では、高校中退問題に意欲的に取り組んできた都立足立新田高等学校の前校長である鈴木高弘さん(現在、アクト情報ビジネス専門学校長)を招き、報告していただいた。当日は、学年末にもかかわらず、40名以上の参加があり、この問題への関心の高さをうかがわせた。

 足立新田高等学校では、90年代後半の一時期、募集定員割れとともに入学者の半数近くが中退するという困難な時期が続いた。都立高校の統廃合が進められるなか、学校存亡の危機に直面した本校に校長として着任したのが鈴木さんである。以下、報告の概略を示す。

着任のころ「絶望的な状況」

 1997年11月、年度途中に着任。荒れた学校の姿に驚く。すでに、2、3年生の半数近くは中退してしまっている。学校中がゴミだらけの状態だった。その中に平然と座り込んで昼食をとる子どもたちの姿…。それが足立区の中で一番厳しい状況にあった子どもたちが否応なく集まってきて過ごす高等学校の姿だったのである。

 43名いる教職員のうち、22名が異動希望を提出。「俺たちは一生懸命にやってきた。だけど、どうしようもない」と。出せる条件(年限等)のものは全員が出していた。

 このままでは、明らかにこの学校はつぶされる。そう思って、この学校の何かいいところはないかと必死で探したら、3つあった。

「いいところ」発見…「学校の特色づくり」へ

 発見した「いいところ」とは、次の3つである。‡@施設・設備が非常に充実した学校である点(スポーツ活動等に適している)、‡A平均年齢37歳という教職員の若さ(教育『困難校』ゆえの特徴?)、‡B学校のある足立新田地域には高齢者が非常に多いこと。

 以上、3つの「いいところ」から発想した新たな「学校の特色づくり」は、まず、スポーツ活動の充実であった。近隣の河川敷にあるゴルフ場を無料で借り、体育の授業に導入。役所の協力をとりつけ、不燃ゴミとして出されていたクラブを大量に回収して再利用。

 次に、若い先生方が得意とするところのパソコンを生かした情報教育に力を注ぐこと。最後に、高齢者が多いという地域の特徴とこれからの社会の動向を見据えて、福祉教育を切り口に学校再建をおこなうこと。以上の3本柱を立てて、学校の特色づくりに着手したのである。

ユニークなカリキュラムづくり

 授業というのは、学校にいるのを楽しくしなければならない。生徒が学校を一番やめるのは1年生のとき。なんとか1年生を切り抜けられるようなカリキュラムの工夫を!ということで、午後からの授業はできる限り「座学」を減らし、体験的かつ生徒の興味や関心を生かす授業を工夫した。「総合的な学習の時間」を4時間導入した(『総合現代』と『総合人間科学』)のもそのひとつである。

 そして、2年生からは、スポーツ・情報・福祉という3系列に分かれ、それぞれの興味・関心に応じた選択を拡大していく構想を打ち立てたのである。総合学科では6系列、7系列というのが普通だが、これはいかにも多すぎる。本校は無理なくやっていこうということで、この3系列に絞った。

 着任した翌年の5月には新カリキュラムを仕上げ、さっそくパンフレットの作成にかかり、各中学校を回っていった。

学校をきれいにする!「隗よりはじめよ」

 しかし、厳しい実態の在校生たちを抱えながらの改革である。相変わらず、校舎内は汚れ、破壊されている。いくら新しいことをやろうとしても、これでは中学校側や保護者が認めない。こんなひどい状態で何かをやると言ってもだめである。この状態を劇的に変える方法を考え続けた。実は、これが一番難しいところだった。

 教職員に、「何をやっても無駄」というあきらめのムードがあるなか、まず校長自らが、毎朝たっぷり1時間かけて校舎内の掃除を開始した。夏休みには、校舎内の床にていねいにワックスをかけ、壁を水性ペンキで塗りなおした。各階に談話コーナーを作り、観葉植物も置いて、生徒たちが腰掛けて歓談できるようにした。これらの予算は、都教委と直接交渉をし、学校改革の成果を上げ、中途退学を激減させると約束して確保したものである。

改革一期生を迎える

 例年、入学説明会には20名そこそこしか集まらなかったのが、その年の第一回説明会には100名が来た。足立新田が何かをやっている、ということで集まってくれた。その年の入試の倍率は、学区内で男子がトップ、女子が3位でトータル2位。

 さて、こうやって入学してきた生徒たちのニーズに学校が果たしてちゃんと応えていくことができるのか、約束した「3つの公約」を実現できるのかどうかが、大きな課題となってくる。

 まず、都教委に要望して、学校の特色化のための予算を獲得し、パソコン教室や福祉実習室、体育トレーニングルーム等を相次いで設置していった。

 同時に、近隣の専門学校や保育園との連携を図り、情報教育や福祉分野において、より専門性の高い教育や実習をおこなう機会を確保し、保障してきた。特筆すべきは、在学中にホームヘルパー2級の資格を取得することを可能にしたことである。この養成講座では、3ヶ月間にわたり土日の休みを活用して保護者・地域の方と生徒が一緒に講義・実習を受けるユニークな形をとっている。普通科の高等学校においても、このような資格取得を視野に置いたカリキュラムの充実が今後一層、重要性を帯びてくるであろう。

音をたてて変わる学校

 マスコミ等にも積極的に協力・公開し、足立新田高等学校がどんどんよくなっている、学校が落ち着いてきた、様々な試みをやっている…と宣伝してもらう。スポーツのほうでも野球部、サッカー部そして都立高校唯一の相撲部等の活躍で、学校も徐々に活気づいて来た。いろいろなところから学校がめりめりと音を立てて変わって来た。気づいてみたら5年経っていた。今では、中退も激減し、意欲をもって生徒たちが学んでいる。今後は、この改革をいかに引き継いでいくかである。

 本校は学力で「いい子」を入学させたいということを一切考えてはいけないと考えている。受験に強い学校なんていくらでもある。きちっとしたスキルを身に付けさせ、しっかり3年間授業を受けて、自分なりの目的を先の「3つの系列」の中で見つけていけばよい。

 足立区は厳しい生活状況の家庭が相対的に多い。いわゆる単身家庭の生徒の数も少なくない。そういう生徒たちが集まってくる学校が本校であった。本校のような学校こそがまず、自らボトムアップしていく必要がある。ただし、受験校づくりをしたらだめなのであって、「特色づくり」をおこなって、本校に「入りたい」と思うような中身を作っていく必要がある。それが足立区民の要望に応えることでもあると考えている。

まとめ

  • 生徒が目的をもって学習することで、学校への定着度が高まり、結果的に中途退学・フリーター輩出の予防効果がある。
  • 学校改革には相当のエネルギーが必要。先生の負担も増加する。特に柔軟なカリキュラムがもたらす複雑な授業展開が改革のブレーキになりかねない。
  • 教員の意識改革がなされなければ、結局、改革は頓挫する。

(文責・事務局)