調査研究

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部会・研究会活動 <教育政策部会>
 
教育部門合宿
2002年09月1-2日
  (1)「『学力低下』問題をめぐって」

(報告) 志水 宏吉 (東京大学)

(2)「高校生の就職問題」

(報告) 古賀 克之 (大阪府立学校人権教育研究会)

 研究所教育部門の合宿が9月1日、2日に京都で開催された。1日目はいわゆる「学力低下」問題をめぐって、2日目は「高校生の就職問題」について、それぞれ報告を受けた上で討議し、今後の研究の在り方を展望した。以下簡単に報告する。

 「学力低下」問題については、まず東京大学の志水宏吉氏より、昨年(2001年)11月に大阪で実施した学力調査(小学5年生・中学2年生対照)の結果について報告を受けた。今回の調査内容は、12年前(1989年)にほぼ同一問題(教科は国語、算数(数学))で実施されており、二つの調査結果を経年比較・分析した結果を次の3点にわたって指摘された。

(1) 子どもたちの「基礎学力」は着実に低下している。

(2) 「基礎学力」の低下は、学習環境の変化と密接に結びついている。

(3) 「できる」子と「できない」子の二コブ化が見られる。

 その背景にはここ10年間に生起した「新学力観」に代表される教育政策の変化や経済不況による生活・文化面の子どもたちの意識変化等々多様な要因が影響していると考えられる。調査結果の詳細は、雑誌「論座(朝日新聞発行)」2002年6、7月号掲載論文等を参照していただくとして、ここでとりわけ注目しなければならないのは、学力における「階層間格差の拡大」の指摘である。

 すなわち、「基礎学力」の低下や子どもたちの「勉強離れ」現象はどの階層の子どもたちにも一様に進行しているわけではなく、家庭の経済状況や文化的環境と密接に関連しているということである。「塾に通っている者(通塾)」と「通っていないもの(非塾)」の格差がより拡大しつつあるという今回の調査結果がそれを端的に示している。子どもたち全体の学力が低下しているというよりは、「できる子」と「できない子」の学力格差が広がりつつあるのである。

 この指摘は、同和教育・人権教育を進めてきた陣営にとってさらに重要かつ深刻な意味を持つ。

 実は、今回の学力調査は、1989年に大阪の同和教育推進校を対象に実施されたものをベースにした調査であり、同和地区生徒と地区外生徒の学力状況についても経年で比較考察することが可能である。今回の合宿ではこの点についても志水氏より報告していただいた。

 各教科の平均点を比較した場合の地区・地区外の点数格差は、調査対象であった小学5年と中学2年の全ての教科(国語・算数(数学))において、前回の調査より拡大してしまっている。とりわけ、小学校における格差の増大は深刻である。

 その要因として、例えばここ10年の同和地区における流出入の激化(階層分化の進展)や消費文化の浸透等々、いくつかの点が考えられる。その意味で、同和地区の状況は、日本全体の階層間格差の拡大を先取りした形で進行しているのではないかとの指摘もなされた。 

 今回の調査で同和地区の学力分析に焦点を当てた分析結果の詳細は、部落解放研究第148号(2002年10月号)「2001年東大グループ学力調査からみえてきたもの」として志水氏に執筆いただいているので、ぜひ御覧いただきたい。

 これまでの、印象論的な「学力低下」論争とは異なり、実証的データに基づく今回の調査結果が示す事実は、同和教育・人権教育の陣営にとってきわめて重い。この10年間に府内の同和教育推進校を中心に熱心に取り組まれてきた学校改革・授業改革の内実をいま一度問い直す作業から始めなければならないだろう。しかし、そのための検証軸をも今回の調査は教えてくれている。

 それは、全体として厳しい社会状況の中、子どもたちの学力も階層間格差が拡大しつつある中でも「がんばっている学校」が存在することにある。すなわち、地域や家庭の様々な要因によって生じてくると考えられる学力格差を学校の力によってかなりの程度克服していると考えられる学校が大阪の同和教育推進校の中に存在するという事実である。

 今回、その「がんばっている学校」である松原市布忍小学校、第三中学校から学力保障の取組に焦点を当てて報告を受けることができた。両校の教育に共通の特徴として、(1)授業における個別指導・少人数学習・一斉指導の柔軟な組み合わせ (2)集団作りを大切にし「わからないときはわからないといえる」学習環境をつくっている、(3)「習得学習ノート」の活用等による家庭学習の充実等々、いくつかが挙げられる。

 しかし、何よりも特徴的なのは、参加者より「地域の文化として根付く家庭学習」と形容されたように、学校現場と地域・家庭、そして教育委員会までが一丸となり、数十年にわたって推進してきた学力向上の取り組みの内実そのものである。

 今後、このような両校の学力保障の取り組みを同和教育・人権教育の視点から理論化・一般化し、すべての学校において、推進していく必要性があるだろう。

 二日目は、大阪府立学校人権教育研究会の古賀克之さんより、厳しさを増す「高校生の就職問題」について報告を受け、今年3月に厚生労働省と文部科学省より出された「高卒者の職業生活の移行に関する研究(最終報告)」の批判的検討をおこなった。

 何よりもまず、昨今の厳しい経済状況の中で、とりわけ高校生に対する企業側求人が激減してきていること。その中で、「最終報告」では、(1)「一人一社」制等の就職慣行の見直し(2)職場見学会やジョブフェア(企業説明会)の開催等々が打ち出されてきているわけだが、これらの就職慣行の見直しについては、近畿統一応募用紙をはじめとするこれまでの取り組みの経緯を十分に踏まえ、人権の視点を大切にした新たな就職慣行創出のための改革として進める必要があることが確認された。

 また、「最終報告」のいう(3)キャリア教育の推進をめぐっては、単に高校段階における職場体験学習(インターシップ)の問題としてとらえるのではなくて、小学校段階から中学・高校と長期的なビジョンを持ってキャリア意識の形成を進める必要があることが確認された。

 また、今回の討議では十分に深められなかったが、いわゆる高卒フリーター・無業者の増加をめぐって、その実態と意識の詳細な調査・分析の必要性が確認された。今後、研究所の高校部会等で継続して課題を追求していきたい。

(分責・事務局)