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2006.10.12
部会・研究会活動 <教育政策部会>
 
教育政策部会・学習会報告
2006年9月2日
キー・コンピテンシーとは何か

立田 慶裕(国立教育政策研究所 総括研究官)

キー・コンピテンシーの巡る動き

「現在社会には『○○力』という言葉があふれているが、その基本となるものはないのか」

「社会経済的不平等や文化的多様性等に起因する地球規模の課題が深刻化する中、人生の成功や幸福を得るとともに、社会が持続的に発展していくために何が必要なのか」

このような命題に対して、OECDでは、生涯学習の観点からナレッジ・マネジメントをベースにした手法で国際的に標準化・共通化するプロジェクトを行った。これがDeSeCoプロジェクト(1999-2003)である。この間、教育関係者だけでなく、政策関係者、経営者、組合代表等からも意見を収集し、さらに12カ国間の協議や専門家による研究整理を経て、2002年の国際シンポジウムで合意を確立した。

DeSeCoプロジェクトではメタ学習の重要性を踏まえており、プロジェクトを進めるにあたっては、先進国だけでなく途上国も視野に入れたこと、個人の人権の尊厳を押さえたことが特徴である。学力低下論争で有名になったPISA調査や、日本では行われていない成人版PISA調査(PIACC)も、キー・コンピテンシーの観点から、普通の学力ではなく、より生活に密着した力の調査が行われている。

キー・コンピテンシーの構成

コンピテンスは日本語に訳しにくい言葉だが、「学習の意欲や関心から行動や行為に至るまでの広く深い能力、人の根源的な特性」と捉えることができる。

DeSeCoプロジェクトでは、人生の成功(幸福と成功をもたらす力)と社会的発展(持続可能な発展)を両立させるコンピテンシー(コンピテンスの集合体)として、以下の3つをキー・コンピテンシーとして定義づけた。さらに、これらのコンピテンシーの核心は「思慮深さ」とされている。

I「異質な集団で交流すること」=人間関係のコンピテンシー

このコンピテンシーは「共に生きることを学ぶ」メタ学習にあたる。具体的な力として、<1>良好な人間関係(ネットワーク)、<2>他者との協働(チームワーク)、<3>紛争の処理と解決(問題解決力)が含まれる。

II「自律的に活動すること」=個人形成のコンピテンシー

このコンピテンシーは「人として生きることを学ぶ」メタ学習にあたる。具体的な力として、<1>大きな展望での活動(システム思考)、<2>人生計画とプロジェクトの設計・実行(物語とライフプラン)、<3>権利、利害、限界やニーズの確保と主張(権利から表現へ)が含まれる。

III「相互作用的に道具を用いること」=道具活用のコンピテンシー

このコンピテンシーは「なすことを学ぶ」メタ学習にあたる。具体的な力として、<1>言語等の相互作用な活用(リテラシー)、<2>知識や情報の相互作用的な活用(知識管理と情報リテラシー)、<3>技術の相互作用的な活用(知識管理と情報リテラシー)が含まれる。PISA調査の主要な調査対象になったのはこのコンピテンシーである。

キー・コンピテンシーの活用に向けて

コンピテンシーの概念は生涯教育の観点から横断的に構築されているので、すぐに学校教育の教科型カリキュラムに適用できるものではない。しかし、現在行われている「総合的な学習の時間」はメタ学習の観点から効果が期待できる。重要なのはすべての個人の発達力と、家庭、学校、地域の教育力・発達力が相互作用的に力を付けていくことである。

OECDは、一部のエリートの利益を促進するためではなく、格差を縮小し社会的平等に貢献する能力を高めることを目標にしている。したがって人権も重要な概念として位置づけられている。

キー・コンピテンシーは極めて広範な概念であるが、今後は、日本の教育政策で活かしていくためにも、まずは成人能力調査(PIACC)によって実証していきたいと考えている。

(文責 事務局)