2008年3月にまとめられた文科省「人権教育の指導方法等の在り方について・第3次とりまとめ」の進捗状況を調べた文科省「人権教育推進取組状況調査結果」が10月30日に出された<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/024/report/1286550.htm>。
これについて、平沢安政さん(大阪大学)、森実さん(大阪教育大学)から、個人的立場ということで、その概要と評価、今後の課題などについてご報告をいただいた。その中で課題と関連した内容を主に、以下、紹介する。
- 人権教育の推進方針・計画、研修の実施状況など多くの点で、都道府県教委と比べ市町村教委の取組みは弱い傾向があるが、「報告書」では、市町村教委の実情等も配慮し都道府県教委と市町村教委の連携による取組み強化の方向を示している。
- 管理職研修の実施が低調な結果が出ているが、急速に進んでいる教員の世代交代に対する人権教育の研修の役割・意義の認識は極めて重要である。
- 取組みが低調気味な取組み内容があるが、他方でそのグッドプラクティス(すぐれた実践)も個々には多数あり、それを意識的に紹介していく取組みが必要である。
- 「第3次とりまとめ」の活用が弱い面が出ている、分析では「人権教育の指導内容・方法等について整理したものであり、とりまとめを踏まえた研修の改善・見直しは極めて意義がある」と指摘している。
- 「おわりに」でも「人権教育の充実が、児童生徒の学力の向上、民主的な学校・学級作り、隠れたカリキュラムの再構築といった、今日的な教育課題の解決にも資するものである」と、人権教育の意義を示し、人権教育は「+α」ではないことを明示している。
- 「はじめに」でも人権教育啓発推進法や人権教育の世界計画といった「法的・社会的根拠」に触れている。
- 文科省の関与のあり方についても、「情報提供」「情報発信」という点で触れている。
- 学校で「力を入れている資質・能力」としては「多様性への肯定観」(約84%)「想像力や感受性」(約72%)といった「価値的・態度的側面」に力点が置かれているが、「技能的側面」(「批判的思考技能」約3%)や「知識的側面」(「法律・条約の知識」約4%)は極めて弱いというアンバランスがある。
- 「とりまとめ」で指摘した「協力的」「参加的」「体験的」な学習を行っている学校は2割強(高校は14%)と弱い。
- 「教材の選定・開発」では「視聴覚教材の活用」「外部講師の講話」が約6割で、「地域教材」(3割)「地域と共に作る教材」(7.2%)という状況で、地域に根ざした人権教育の教材開発が弱い。
報告を受けた後の質疑では、「学校部分での質問内容の難しさ=回答のしにくさの改善」「人権関連の法律・条約が社会ででもどの程度教えられているのか」「子どもによる人権教育の評価の仕組みの重要性」「学校で学習プログラムを開発できる力を付ける必要性とその支援の検討」「人権教育の時間そのものを学校で設定することが全国的にはまだまだ難しいのでは」「時代の変化の中で今日、部落問題を小学校でどう教えられるのか」「人権教育は学習者主権のように自由権的教育権では危険で、憲法的価値観を基礎とした社会権的教育権に基づく発想で、内容づくりを対話の中で切磋琢磨していくべき」「人権教育推進の公的根拠として今日的にも調査結果を活用していく必要性」「OECDのコンピテンシーの視点から人権教育・学力向上・道徳教育の関係性を整理していく必要」など、活発な意見交換がされた。
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