全隣協顧問で、芦屋市立上宮川文化センター館長でもある中尾さんが自らの実践と経験を交えながら、成人教育実践に関する隣保館の考え方と姿勢について、次に成人教育部会準備会が研究所紀要『部落解放研究』131号に発表した「部落解放にむけた成人教育の課題」に関して報告された。以下、ごく簡単にその内容をまとめてみる。
「福祉と人権のまちづくり」のテーマは、第三期の解放運動の行政版で、部落解放をめざす成人教育の具体的課題「自立・まちづくり・内外交流」そのものであり、啓発・講習講座事業に限らず、隣保館の活動や事業はすべて「教育」と位置づけられる。また隣保館設置運営要綱がうたう「総合的な事業の推進」は、地区内・地区外というエリアや行政の縦割りを超え、同和問題と人権問題を統一的に捉える視点を必要とする。
成人教育部会が提言の中で述べている課題に応える成人教育プログラムが弱いのはなぜかを考えたとき、次のような要因があるのではないか。
行政・隣保館側の問題としては、量的にも質的にも隣保館の保守管理に必要な職員程度しか配置されていない行政上の位置づけの弱さ、プログラム作りやノウハウに対する習熟が足りないという職員の資質の問題、「部落解放」の展望とイメージが不鮮明で短期中期の目標が設定できていないという問題、動員型参加が通用しなくなったこと、事業が部落問題に限定された狭い発想で行われてきたこと、地域におけるニーズの把握が不十分かつ曖昧で、総花的、画一的な事業にとどまっていること(自力で自立できる層まで対象にする必要はなく、自立が困難なら部落内外を問わず対象にすべき)、土日・祝日休館が地域の実態に合わなくなっていること、などがある。
他方、住民・運動団体側の問題としては、住民、特に若年層意識が多様化していること、地域の教育力の不足ゆえに「良いプログラム」が地区住民に受け入れられにくいこと(地区外住民の参加が多い)、地区外住民に隣保館を開放することに抵抗を感じる地区の閉鎖性(本来は地区外の人びとを歓迎する「よき部落気質(かたぎ)」があったはず)、などがある。
この現状を変えるためには、人材育成(子育て)という地域の共通課題に正面から取り組むことである。そしてこれはそのまま成人教育の課題だと考えている。具体的には、子どもたちの学力面、体力面、生活面における危機的状況を地域全体で把握し、統計的な資料よりも学校・家庭・隣保館等における子どもの現実の姿を把握すること、子ども会活動や解放学級などの諸事業・活動を、子どもたちが広い世界に出ていけるような自立の観点から見直すこと、そしてこれらの一連の取り組みを地域総ぐるみでプログラム化することを提案する。
自立やまちづくり、地区内外交流の観点からは、同和対策で建てられた地区施設を広域施設として活用するためのコンセンサスづくりが必要である。具体的にそれは、参加費を払ってでも行こうと思わせる事業の中身をつくること、地区住民による館使用時の事務手続きを部落外にも通用するよう厳格にすること、館の目的外使用を有料で認めること(建前的に同和問題学習を義務づけるよりも利用者のニーズをまず満たし、館に足を運ぶうちに学んでもらうことの方が重要)、地区に来てもらうだけでなく地区外の周辺施設の積極的利用を促すこと、などを通じて実現される。