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成人教育部会・学習会報告
2001年5月25日

学成人教育における参加型学習の可能性
―ワークショップ原論のこころみ

(報告)花立都世司
(大阪市教育委員会人権教育企画室)

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 前回に引き続き、成人教育プログラムを実施する側ではなく学習する側に注目して、具体的な事例における学習者の意識変化や変容等、学習効果を測定するかについて、報告いただいた。

 兵庫県の「トライやる・ウィーク」は成人ではなく子ども(公立中学校2年生)を対象とした教育活動であるので、成人教育の場合とまったく同一視することはできないが、「トライやる…」における学習者の変容をどう評価するかに関する研究の批判的検討からおおいに学ぶべき点があると考えられる。以下、笹倉千佳弘さんの報告をごく簡単にまとめる。

 「トライやる…」の中心となるのは「体験活動」であり、職業体験に限られない文化・芸術創作活動、郷土芸能なども含まれるが、内容はその地域の特性に大きく規定される。「体験活動」ゆえの偶然性に恵まれて、たとえば子牛の誕生に立ち会う感動的な体験をした例もあり、成果をあげている一方で、問題点もある。一つには、「あいさつをしよう」「進んで動こう」といった心構えを説くなど、生徒指導の観点から捉えられていたり、もう一つには、受け入れ先での質問事項を事前に指導したり、体験後の礼状をマニュアル化して書かせるなど、「マンネリ化」によって当初の新鮮さが失われつつある。

 「トライやる…」における教育効果の評価に関するこれまでの研究から、心理学的アプローチと解釈的アプローチによる総体的評価(量的研究)を二例取り上げ、その問題点を明らかにしてみる。

 心理学的アプローチと名付けた研究は、中学生の「生きる力」の心理学的要素として「自己効力感」「勤労観」「個人志向性・社会志向性」を指標化し、質問紙調査を通じてそれらを数値化して「トライやる…」前後に数値がどう変化するかを見たものである。

 解釈的アプローチと名付けた研究は、幼児との交流体験をした中学生が書いた感想文を素材に、分析者が設定した「気づき」のパースペクティブに沿って、幼児、親、自分、学校、暮らしへの「気づき」を解釈的に抽出し、自分自身、親や周囲との関係についての枠組みが修正され、「生きる力」を培い、「人間性への回帰」を果たしたと結論づけるものである。

 これらの総体的評価による研究の問題点は、「トライやる…」の前後の短期的な変化しか視野に入れていないこと、解釈的アプローチにおいては、生徒の感想文の取捨選択において分析者の恣意性が排除できないこと、アンケートや感想文、インタビューにおいて生徒が「期待される回答」を先取りしてしまうこと、生徒と教師の間のダイナミズムが反映されていないこを、彼女自身の語りや担任の語りを通して描き出した。

 私自身の教師の経験を思い返すと、小さなステップの積み重ねで少しずつ成長していくというよりも、あるとき突然わかる、変わるというモデルの方が実態に合っていると思う。それには、Aさんの担任だったT先生のように時機を得て「背中を押してくれる人(=強制する人)」の存在が重要である。

 これに対し、「AさんとT先生との関係だけでなく、Aさん自身の持っているものやその他の人との関係など、Aさんの変容に関わる多数の条件を入れ込めば、もっと重層的な描写になるのではないか」「成人教育においても背中を押す人は、あり方は違っても重要だろう」「教師との関係よりも、友達との関係で大きく変わるという印象がある」「教育実践がマニュアル化するのは問題だが、子ども自身はそれを乗り越えていく力も持っている」「スキルやマニュアルを持って臨むことと、偶然を引き起こすこととは対立しない」「ワークショップとかつての共同学習における教育モデルの違いを整理する必要がある」といったさまざまな意見が出された。 (熊谷 愛)